お客様情報
株式会社デンソー
1949年12月設立以降、先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーとして、世界初製品や技術を提供し、企業の社会的責任を果たしている。
- 本社所在地
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〒448-8661
愛知県刈谷市昭和町1-1
- 設立
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1949年12月16日
- 資本金
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1,875億円
- 従業員数
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連結 158,056人
単独 43,781人
*2025年3月31日現在
※取材当時の情報です
※写真:左から、ビジネス基盤開発室 市東 航典 氏、同室 濵﨑 智宏 氏、同室 担当係長 近藤 忠優 氏、同室 室長 福井 秀徳 氏
Introduction
- 「ソフトウェア管理」システムの構築にAI駆動開発を採用
- 従来の4倍におよぶ開発生産性向上により短期間での本番稼動を実現
- AI最大限活用のためのモノレポ運用等、AI時代の開発に活かせるノウハウを獲得
「環境」「安心」領域での価値創造を通じて、笑顔あふれる未来を届けること、そして循環型社会の実現に向け、「モビリティ」から「社会全体」への貢献に広げて価値を届けていくことーこれらを使命に掲げ、クルマと人、クルマと社会が多様な形で繋がるための先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカーである株式会社デンソー(以下、デンソー)。同社のデジタル活用推進部・ビジネス基盤開発室では、新たに構築するソフトウェア開発管理のためのシステム構築にあたり、昨今、注目が集まるAI駆動開発を採用。この結果、開発工程の生産性を大幅に向上させ、短納期化を実現し、さらにAI時代の開発に活かせるノウハウ獲得など大きな導入効果を実現した。
Interview
過去に経験していない大規模・短納期開発案件に直面
デンソー全社のITを牽引するITデジタル本部は、これまで業務の根幹を支えるミッションクリティカルな基幹システムを多数構築してきた。一方、同本部の傘下にあり福井 秀徳(ふくい ひでのり)氏が率いるデジタル活用推進部・ビジネス基盤開発室は、従来の基幹システムではカバーされていない新領域の業務システムを、クラウド技術等を活用して機動性高く開発。ユーザーの求める姿に素早く近づけつつ、業務変革を後押しする活動を進めてきた。こういった状況の中、2024年6月、本案件の依頼があった。「規模的には基幹システムに迫る、ビジネス基盤開発室としては未経験となる大規模案件でした。加えてスケジュールも極めてタイトで、これまで以上の機動性が求められる、非常にチャレンジングなプロジェクトでした。」(福井氏)。

デジタル活用推進部
ビジネス基盤開発室長
福井 秀徳 氏
クリエーションラインの提案で“AI駆動開発”の採用を決定
対象となったのは「ソフトウェア管理」のためのシステム。1,000人におよぶ社内ユーザーが使用し、開発規模は30万行。さらに既存の基幹システムとの緻密な連携が必要になるなど、ビジネス基盤開発室がこれまで経験したことがなかった規模・難易度のシステムだった。
従来のアプローチでは納期遵守が難しいと判断される中、本プロジェクトを成功に導くための検討を重ねた。その過程でパートナー企業であるクリエーションライン株式会社(以下、クリエーションライン)から提案されたのが、AIを使って要件定義から、設計、実装、テスト、デプロイに至るまで開発ライフサイクル全体の生産性と品質を高める新手法“AI駆動開発”だ。
ビジネス基盤開発室の市東 航典(しとう こうすけ)氏は、「AI駆動開発については、当時、既に話題になっていましたが、まだ完全に頼り切れるという感じではありませんでした。しかし一方で、その進化の速度を考えると、人間が追いつかれるのも時間の問題であり、近い将来、少人数でも大規模な開発ができるような技術になっていくだろうという期待がありました」と振り返る。

デジタル活用推進部
ビジネス基盤開発室
市東 航典 氏
クリエーションラインは、以前からデンソーと協業を行っており、また資本関係もあるなど、両社の連携は密接だった。さらに某社でのトライアルプロジェクト等で既にAI駆動開発に関する経験を有していた。それまでビジネス基盤開発室と直接関わる機会は無かったが、他部門との協業の件などが福井氏にも伝わっていた。「デンソーとクリエーションラインは、これまでも多くの案件で協業しており、他部門における取り組みを通じて、そのノウハウや実力を評価していました。AI駆動開発についても既に実績がある同社との協業によって今回の案件をAI駆動で進めることができると考えました」(福井氏)。
こうしてAI駆動開発の採用を決めたビジネス基盤開発室では、クリエーションラインを含め5名という少数精鋭な体制から本プロジェクトをスタートした。
プロジェクト全工程でAI駆動開発を実践。運用面でも様々な工夫を実施
今回の案件は、約30万行規模でありながら、2025年4月~12月の約9ヶ月で開発工程を完了し、実運用を開始する必要があった。プロジェクト開始時点でAI駆動開発の経験がないビジネス基盤開発室にとって、大きなチャレンジとなるプロジェクトだった。
主管部門の担当者との打ち合わせ内容を要件定義書に落とし込む最初のフェーズから、設計書作成、コーディング、テストに至るまでAIをフル活用した。コードエディタにはCursorを採用し、各成果物はGitHub上のリポジトリで管理する形態とした。クリエーションラインの担当者もプロジェクト立ち上げ当初から参画し、AI活用を支援した。AI運用ルールの更新やプロジェクトに関する共有事項については、毎朝実施するミーティングで情報提供・共有を行うよう努めた。
プロジェクトでは、世の中のAIの進化に合わせて継続的な改善が行われていた。市東氏は、プロジェクトでの日々を振り返り「クリエーションラインの担当者は一人ひとりの技術へのアンテナが非常に高いと感じました。例えば、米国などで新たな機能がリリースされるのは日本の深夜になりますが、その数時間後の朝にはチームの中で話題に上げてくれるといった対応も多く、技術力に加え、常に新しく有用な技術を追い求めるマインドがとても強いと感じました」と話す。
日々の情報共有に加え、クリエーションラインの提案で本プロジェクトに組み込んだ試みとしては、「3チーム体制で継続的改善に取り組み、成果を共有するアプローチ」「会議ルーム(仮想共同オフィス)を活用したコラボレーション開発」「議事録・仕様書・ソースコードなど、プロジェクト情報を一元管理する統合リポジトリ(モノレポ)の整備」などがあり、それぞれが開発生産性向上へ貢献した(これらの詳細については後述)。
こうした各種の工夫やプロジェクトメンバーの尽力、さらにAI駆動開発のメリットを最大限に活かすことにより、トータル70人月を費やした本プロジェクトは、当初の計画通り、無事カットオーバーを迎え、システムの実運用を開始することができた。

デジタル活用推進部
ビジネス基盤開発室
担当係長
近藤 忠優 氏
■従来の4倍の開発生産性を実現。3チーム体制での開発やモノレポ活用などのノウハウも獲得
今回のプロジェクトでAI駆動開発による最大の導入効果は、基幹システムとの連携機能を持つ大規模システムを高い生産性のもとで開発できた点にある。福井氏は、「従来の内製スクラッチ開発におけるステップ数ベースの生産性との比較では、AI駆動開発によって約4倍の開発生産性向上を図ることができました。プロジェクト前半では主にコーディング工程でAIを活用していましたが、プロジェクト後半には、世の中のAIの進化とメンバーのAI活用力の向上により、要件定義・設計・テストなど、ほぼすべての工程でAIを活用するようになりました。その結果、工程全体を一気通貫で進めるAI駆動開発を実現しました」と強調する。この高生産性によって、タイトなスケジュールであった1年半でのカットオーバーが無事に達成されたことは、明確な導入効果と言えるだろう。
また、もう1つの大きな効果と言えるのが、“AI駆動開発を自律的に推進できるスキルが養われたこと”だ。ビジネス基盤開発室 担当係長の近藤 忠優(こんどう ただまさ)氏は、「単なるアウトソーシングではなく、両社のメンバーが対等な立場で共に手を動かし切磋琢磨する過程で、AI駆動開発を推進するためのノウハウやスキルがチーム内に深く根付いたと感じています。この『一つのチームとして成長していく経験』こそ、非常に大きな価値だと確信しています。」と強調する。こうしたチームの進化を支えたのが、クリエーションラインの提案によって導入された数々の運営手法だ。実際に高い効果を発揮した、代表的な工夫をいくつか紹介したい。
■3チーム体制で継続的改善に取り組み、成果を共有するアプローチ
多くの可能性を秘める一方で、変動要素が多く進化が著しいAIを最大限に活かすため、本プロジェクトでは3チーム体制で試行する開発アプローチが実践された。「各3名で構成される3つのチームが、それぞれが異なるツールや活用方法を研究・検証し、試行錯誤を重ねながら継続的に進化してきました」(福井氏)。実施後、良かった点、改善すべき点などを持ち寄り、共有することで最適解を見出す。これまで各々のチームが仕事の仕方を揃えて効率化すること(標準化)を企業文化の中でずっと学んできた福井氏にとって斬新に映ったアプローチだが、クリエーションラインがこれを提案した理由については、「常に学習し新しいことを試している彼らは、最近のAIの進化を肌で感じていて、このような研究・検証の先に、そこまで費やした工数以上の効率化が望めるという勝算があったのだと感じました」と話す。
■常時通話状態の会議ルーム(仮想共同オフィス)を活用したコラボレーション開発
チーム内のコミュニケーションについても提案があった。福井氏は、「今回のプロジェクトではリモート開発が行われましたが、チーム毎に会議ルームが接続されたままの形態をとりました。何か聞きたいことがあればミュートを外して質問するといった形ですが、このような仮想共同オフィスを活用したコラボレーション開発とAI駆動開発は非常に上手くかみ合ったと感じました」と話す。従来の開発形態ではコーディング作業などに追われ、十分にコミュニケーションをとる時間もない状況になりがちだが、CursorなどのAIコードエディタを使用した場合、日本語のプロンプトによってコーディング作業を自動化できるためコーディングに没頭するという時間が不要になる。逆に成果物をお互いに見せあってレビューし、改善点などについて対話する時間が大半を占めることで、開発品質の向上や作業のスピード化が図れる。「大人数では難しいですが、今回のような3人程度のチームでは、常時オンライン会議を接続したままでいる仮想共同オフィスがコミュニケーション面や人材育成面で最適だと感じました」(福井氏)。
■プロジェクト情報を一元管理する統合リポジトリ(モノレポ)の整備
また今回のAI駆動開発で採用したモノレポ構成について、ビジネス基盤開発室の濵﨑 智宏(はまさき ともひろ)氏は、「コードや設計開発のドキュメントまでを含める場合はあっても、例えばユーザーと会話した議事録まで1つのリポジトリに入れたという今回の構成はかなりレアだと思います。AIに『この機能を直して』と指示した際に『議事録でこう言っているがいいですか?』という具合に止めてもらうことが可能になるなど、モノレポ構成をとり、すべての関連情報を収めた運用を行ったことは大きな意味があったと思っています。タイトなスケジュールの中、クリエーションラインの担当者にこの構成をご提案頂いたおかげで、速いサイクルで実装を進めることができたことは、このプロジェクトを成功させる上で重要なカギになったと感じています」と話す。

デジタル活用推進部
ビジネス基盤開発室
濵﨑 智宏 氏
今後の展望:今回のシステムの利用拡大と共に、他プロジェクトへのAI駆動開発適用を促進
AI駆動開発を最大限に活用することで、極めてタイトなスケジュールの中で大規模システムを期限どおりに構築したビジネス基盤開発室だが、今後の展開についても既に明確なビジョンを持っている。
福井氏は、今回開発したシステムの利用拡大に向けた取り組みに加え、今後の同室の役割について、「AIの進化によりシステム開発はその形をどんどん変えていくと思っています。私たちは強力なAIという道具と共に正しい使い方を研究し、広めていくことも私たちが担うべき重要な役割だと考えています。今後その対象は、よりクリティカルなシステム領域にも及ぶと思います」と強調する。
最後に近藤氏は、「今回はクリエーションライン社にコンサルティングや教育を依頼したわけではありません。ただ、一つのチームとしてプロジェクトを推進する中で、彼らが持つ幅広いノウハウやAIに対する高い感度が私たちのチームに深く浸透したと感じています。参画したメンバーが、他のプロジェクトに活躍の舞台を移し、今回のように『常に進化し続けるチーム開発』を推進することで、そこからまた新たな仲間が生まれ、取り組みをどんどん社内へ広げていけると考えています。今回、このような好循環のきっかけを与えてくれたクリエーションラインに感謝しています」と話す。
AI駆動開発やそのためのツールの進化は目覚ましく、その部分のみに注目が集まる傾向が強いが、現実的な開発プロジェクトで重要となるのは、これらのツールを含め、開発者が最大限のパフォーマンスを発揮できるような組織やその運用体制の構築だ。今回の事例は、AIツールなどの仕組みの活用に加え、このようなプロジェクト運用における工夫が、成功裏に開発を進めていく上で非常に重要なことを示唆している。
取材日:2026年3月16日






