お客様情報
日産自動車株式会社
1933年12月の設立後、「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける」というコーポレートパーパスを掲げながら、NISSAN ブランドの下、乗用車、トラック、バスなど多様な車種を製造・販売。近年では EV 分野にも注力している。
- 本社所在地
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〒220-8686
神奈川県横浜市西区高島一丁目1番1号
- 設立
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1933年12月26日
- 資本金
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6,058億13百万円
- 従業員数
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24,413名(単独) 132,790名(連結)
※取材当時の情報です
※写真:右、日産自動車株式会社 日本営業戦略・DX部 DXグループ夏見 慎弥 氏、左、クリエーションライン 久末 瑠紅
Introduction
- 本格的なAI駆動開発/アジャイル開発により本番稼動のデジタルアセットマネジメント(DAM)システムを刷新
- 3年で約7,000万円のコスト削減や組織を巻き込んだ意識変革を実現
- Co-Creation Sherpaとして伴走するクリエーションラインへの高い評価
「モビリティの知能化で、毎日を新たな体験に」という新たなビジョンの下、最先端のテクノロジーをより安全に、より直感的に、より多くの人々の日常生活に提供し続ける日産自動車株式会社(以下、日産自動車)。2025年5月~7月、AI駆動開発のトライアルで販売店向けDAMシステム「PECOBO」のPoCを実施し、確かな手ごたえを得た同社では、今回のプロジェクトで本格的なAI駆動開発に向けた第一歩を踏み出し、多くの導入効果を手にした。ここでは、PO(プロダクトオーナー)として参画した日産自動車 日本営業戦略・DX部 DXグループ夏見 慎弥氏(なつみ しんや)と、開発者であるクリエーションラインの久末 瑠紅(ひさすえ りゅうく)による対談の形で、プロジェクトの詳細に迫る。
Dialogue
61機能の作りきりが目的化する中、「なぜ必要?」という問いで方向を転換
今回の開発対象である「PECOBO」は、現在、販売会社など約12,500名が利用する業務システムだ。当初は別名のスクラッチ開発された仕組みだったが、3年前、大手ベンダー提供のSaaSを採用してリプレースを行った。しかしこの段階で夏見氏は、いくつかの課題に直面することになった。
SaaSベースのシステムで直面した課題

日産自動車株式会社
日本営業戦略・
DX 部 DX グループ
夏見 慎弥 氏
夏見氏:
大きく2つの課題に直面しました。社内体制上、私達が直接開発していなかったため、予算のコントロールが難しかったこと。またSaaSであるが故に、我々の業務に合わせたカスタマイズができなかったことです。
社内体制では、ビジネスサイドの私達の部門と、システム部門があり、私達がユーザーである販売会社のニーズを伝え、システム部門がSaaSを選択・導入しました。しかし、実際の運用が始まると「使い勝手が良くない」という指摘が数多く寄せられました。販売会社の業務効率化が私達の部門のミッションであるため、改善できないか検討しましたが、SaaS形態であるため柔軟なカスタマイズも困難。過度にカスタマイズしてしまうと、セキュリティアップデートが適用できなくなるといった問題が発生するためです。
SaaSの利用で課題を感じたDXグループでは、「PECOBO」の刷新に着手。予算のコントロールや柔軟な改善などの実現に向け、同グループが打ち出したのが開発の内製化だった。そして具現化の手段としてAI駆動開発を採用し、トライアルプロジェクトを経て本番稼動用のシステム開発に着手。この段階でトライアルでも支援に加わったクリエーションラインを開発メンバーとしてアサインした。
PECOBO刷新プロジェクトで、クリエーションラインが発した「なぜ必要?」の問い
夏見氏:
AI駆動開発は、PECOBO刷新プロジェクトだけでなく、同様の課題を抱えている複数のプロダクトに対して、今後ビジネス部門として何ができるだろうと考えた際に浮上したソリューションでした。そして実際にAI駆動開発を進めていくにあたり、その知見やノウハウを豊富に持つパートナー企業であるクリエーションライン社に相談をしました。久末さんとは、当時いろいろ話をしましたよね?
久末:
はい、よく憶えています。最初に夏見さんとお話をした際に、“MVP 61機能”と呼ばれる機能一覧を示され、「この61機能を作りきることがプロジェクトのゴールになる」という意向をお伝え頂きました。対象機能に目を通し、それぞれ必要だろうなと思った一方で、「この機能はなぜ必要なのか?」「何に使うのか?」といったWHYの部分がよく見えないなと感じたことも事実です。そこで対話を通じて疑問点を深堀することにしました。

クリエーションライン
株式会社
プロジェクトマネージャー
久末 瑠紅
夏見氏:
久末さんの「その機能はなぜ必要なのですか?」という問いは新鮮で、これまでとは全く違う開発のアプローチがスタートする気がしました。従来、私達が行ってきたウォーターフォール型開発では、要件定義で機能要求が示され、それに対応した機能を開発するという、上流から下流への一方通行の流れでした。そのため、これまでの進め方においては今回の61機能について「どのように開発するのか」がスタート地点で、「なぜこの機能が必要か」は問われず、そのタイミングもなかったからです。
「ビジネス価値」にフォーカス。「機能の切り捨て」など大きな意識の変革や気付きを得る
こうして開始されたプロジェクトだが、AI駆動開発という新しい開発手法であることに加え、事務手続きやSaaSの契約期限といった諸事情もあり初期の想定より開始が遅れたため、2025年11月~2026年5月迄の約半年でリリース基準を満たす必要がある非常にタイトなスケジュールとなった。当初はこの状況に不安を感じたプロジェクトメンバーだが、ビジネス価値にフォーカスした相互の対話を通じて不安を払拭。さらにユーザーからの声で大きな意識変革や気付きを得た。
ビジネス価値にフォーカスした密な対話を通じて不安を払拭
久末:
開発量や期間などもあり、当初は不安を感じていました。しかし私達からの「なぜこれを開発するのですか?」といった、各機能のビジネス価値に関する問いに、POの夏見さんが全く拒否反応を示すことなく、「これにはこんな意図があって・・・」と、非常に協力的かつ丁寧に答えて下さったことで、次第に不安が払拭され、安心してプロジェクトを進めることができました。
夏見氏:
逆に私の立場からしても、開発者の方々がどんなスタンスで参画して頂いているかという点は非常に重要です。これまでのケースでは、「なぜ必要か」を話しても聞く耳をもたない開発者もおり、その部分が聞き流され、最終的な仕様だけに会話の軸が傾くと、こちらとしても詳細に説明する意欲が失せてしまいます。
クリエーションラインのチームの場合は全く逆で、本当に私達のビジネスに興味を持ってくれているのだと感心しました。61の機能を提示して開発を依頼した際にも、「この機能は貴社の利益に繋がるのですか?」といった多くの質問をしてもらったため、様々な気付きが得られました。
ユーザーへのヒアリングから“切り捨て可能な機能”を見極める
夏見氏:
もう一つ、今回のプロジェクトで私が経験した大きな意識の変化は、61機能を作りきるというスタンスから、まずは最低限必要な機能を開発し、それ以降はリリース後に対応すれば良いと割り切れるようになったことです。久末さんに提案してもらいPECOBOのユーザーヒアリングを実践した際に、必要だと思っていた機能に対してユーザーから「使っていません」「そんな機能は知りません」といった回答があったことで、この気付きが得られました。もちろん、これ以前から必要な機能だけに絞り込んだらどうだろうという考えはありましたが、実際のユーザーの声により、それが確信に変わった瞬間でした。
久末:
夏見さんに衝撃が走ったその瞬間はよく覚えています。私がこの経験を通じて実感したのは、「不要な機能を探し出すこと」の方がより重要であるということです。「あったらいい」ではなく「最も必要なもの」を見極めて開発すれば、無駄を省き、ビジネスに対する良好なインパクトも創出できると思います。
AIが台頭する今、モノづくりをする開発者には、ユーザーのフィードバックから、「ここに使い難さを感じている」「こうすれば使い易くなる」といった使い心地やUXの面についても、実際にユーザーからの反応やフィードバックを俊敏にキャッチアップする能力が不可欠です。その上で、ビジネス側の「これはどんなビジネス価値を持ち、ROI(投資対効果)は何なのか」といった話を念頭に、UXの検討やコラボレーションを行うことができれば、ユーザーに満足して使ってもらえるシステムを実現できると思います。
アジャイル開発に関する見方にも大きな変化が
夏見氏:
アジャイル開発に関する私の勘違いも正すことができました。以前は、アジャイル開発がこれまで実施していたウォーターフォールに比べると、ずっと緩い形で大雑把に進められるものだと思っていました。しかし実際には、今まで「高・中・低」といったザックリ3段階に分けていただけの優先度設定を、今回はより厳格に「この機能とこの機能で順番を明確につける」といった形で、同じ優先度「高」の中でもさらに優先順位を付けていきました。アジャイル開発は、私が思っていたよりずっとベネフィットに直結した対応だと実感しました。
久末:
私達クリエーションライン側は、自らの行動を通じて夏見さんによりアジャイル開発への理解を深めて頂けるよう努めました。まず私達がスクラムやアジャイルのマインドセットを持った上で、レビューや振り返りなどのスクラムイベントの実施や、情報の見える化を図るための制作などを実践しました。さらにプロジェクトの外でも、弊社のメンバーがアジャイル系のワークショップを企画・開催し、夏見さんの部署のメンバーに受講して頂くことで、「AI駆動開発の雰囲気」を実感してもらうといった対応を行ってきました。
導入効果:3年で約7,000万円のコスト削減や組織を巻き込んだ意識変革を実現
AI駆動開発のアプローチや様々な意識変革・気付きを経て、2026年5月にリリースした新PECOBOは、日本全国の販売会社やそのパートナー企業に利用されることとなる。現在までに、このプロジェクトを通じて2~3倍の開発スピード実現など各種の導入効果を手にしたDXグループだが、夏見氏が真っ先に言及したのは、よりビジネス視点にフォーカスした“コスト削減”という効果だった。
大幅なコスト削減、組織を巻き込む意識変革、今後の開発における不安の払拭
夏見氏:
分かりやすい定量的な指標として挙げられる導入効果は、大幅なコスト削減です。AI駆動開発で作ったPECOBOがリリースされると、以前のSaaSベースの仕組みを利用した場合と比べ、3年間で約7,000万円のコスト削減が実現できる見込みです。逆にこれがあったからこそ、会社からの承認が得られたわけですが、実際に定量的に見てもこれだけの価値があるのです。
定性的な面でいうと、今期からアジャイルCoE(Center of Excellence)を日産自動車の中で立ち上げることになり、よりアジャイルな開発手法をもってビジネスに貢献することを求められる状況となりました。このように組織全体を巻き込む形でのアジャイル開発が展開され始めたのも、今回のプロジェクトが成し遂げた成果だと実感しています。

最後は心理面になりますが、リリースがさほど怖くなくなった点を挙げることができます。リリース後に「ここが使い難い」と指摘された場合でも、「スプリントのサイクルを回せば対応できる」と断言することが可能な開発体制を構築できた点もまた、一つの大きな導入効果だと感じています。
Co-Creation Sherpaとして伴走:クリエーションラインの貢献について
夏見氏は、クリエーションラインの貢献という点についても、多くの発言を行っているが、この貢献の背後にあるのが、現在クリエーションラインが掲げる「Co-Creation Sherpa=共創の伴走者」と呼ばれるコンセプトだ。
夏見氏:
私達のビジネス課題に対して、正に“自分事”として取り組んでくださるクリエーションライン社には、非常に感謝しています。今回の本格的なAI駆動開発は、実証実験の位置づけで失敗が許されるというものではなく、これによって先行者利益を確保することが目的となる挑戦的な取り組みです。そんな状況下でもクリエーションラインの皆様には、様々な局面での多大な支援を通じて、明確なベネフィットをもたらして頂いたと実感しています。
久末:
夏見さんがおっしゃるように、確かに挑戦的な取り組みでした。
正直に言えば、「何が御社のビジネスメリットに繋がるのですか?」という点を確認しながら共に進んでいくという形態では、弊社側もリスクを背負うことになります。一般的な多くのSIerが「それは仕様です」と言い切ってクライアントとの間にラインを引くのは、一線を越えた責任を負いたくないからでしょう。
一方、弊社のシェルパ(Co-Creation Sherpa)というコンセプトは、あえてその一線を取り払い、利益・価値の創出までを共に考えながら伴走するというものです。厳しく言えば、結果として想定していた利益・価値が出なければ、もう契約を結んでもらえなくなるというものです。
夏見氏:
開発作業を登山家とシェルパに例えれば、これまでの請負形態での開発では、発注者は山の麓で開発者である登山家に「頑張って山に登ってきて」と言っているだけでした。しかし、シェルパを利用する場合には、発注者自らも山に登ることになります。そしてシェルパが時には引っ張り、時にはお尻を叩いて、登山家と共に最適な道を探りながら山頂を踏破するというものです。“自分で山に登りたい派”の私にとって、クリエーションラインが掲げるこのCo-Creation Sherpaは本当にピッタリなコンセプトだと感じています。
今後の展望:シェルパの支援を受けながらAI活用やアジャイルプロセスの展開を継続
様々な導入効果を実現しつつあるPECOBOは、2026年5月にリリースされ、現在もユーザーフィードバックを得ながら改善を続けている。最後に、2026年9月に一区切りを迎える本プロジェクトとその後の展望について夏見氏が、さらに顧客とパートナー企業の関わり方について久末が言及し、今回の対談を締めくくった。
夏見氏:
リリース後の機能改善フェーズが2026年9月でひとまず完了となりますが、決してここが終点ということではなく、継続したプロジェクトになると考えています。今後ユーザーが実際にPECOBOを利用する中、運用フェーズにおいてAIがどのように活用されていくのか、またアジャイルのプロセスをどのように回していくかという点についても、興味を持って見守っていきたいと考えています。
クリエーションライン社とのお付き合いについては、これからも続けていきたいと考えており、今後発生する面白い登山案件(プロジェクト)については、シェルパとしてのクリエーションラインの皆様と私自身、さらには、私と同じ組織内にいる同様のスタンスの人達も含め、共に登頂(プロジェクトの成功)を目指したいと考えています。
久末:
私達もまた夏見さん、そして組織内の皆様との継続的な協業を楽しみにしています。
最後になりますが、今回のプロジェクトを通じて、顧客と私達のようなパートナー企業の関係について気付いたことがあります。私達はいろいろ話し、質問を行い、より深く寄り添っていきたいと考えますが、もし顧客の側が完全にカードを固め、これらのやり取りから遠ざかってしまえば、真の意味での価値創出の道が閉ざされてしまいます。そうならないためにも、まずはお互いに腹を割って、本音の話をぶつけて行き、それぞれが持つ別レイヤの専門性でシナジーを創出していくことこそが、プロジェクト成功への第一歩となるのではないでしょうか。

取材日:2026年4月7日






