AIと7時間でECサイトを作ってみた —— 第3回構築実験レポート

はじめに
2025年11月、AIを使った開発がどこまでいけるのか試すために、ECサイト構築の実験(3回目)をやりました。今回使ったのは ChatGPT 5.1、Gemini 3.0、そして Cursor の Composer 1 です。
結論から言うと、7時間でバックエンドとフロントエンドの基本機能が動くところまで作れました。ただし、途中で「脳が壊れる」感覚を味わったり、E2Eテストをサボったツケで手戻りが発生したりと、学びの多い実験になりました。
このレポートでは、実際にかかったコストや時間、うまくいったこと・失敗したことを整理して共有します。



実験の条件
開発プロセス
- Lean Canvas でビジネスの目的を整理してからスタート
- ドメイン駆動開発(DDD) の考え方をAIに伝えて設計
- 仕様駆動開発(SbE) で「こういう動きをしてほしい」を具体例ベースで定義
使ったAIモデルと役割分担
| フェーズ | モデル | 役割 |
|---|---|---|
| 計画・要件定義 | ChatGPT 5.1 | 全体の方針決め。推論力が高いので「頭脳」担当 |
| 設計・レビュー | Gemini 3.0 | ドキュメント作成やふりかえり。安くて日本語が自然 |
| 実装 | Composer 1 / Codex | コーディング。とにかく速い |
作ったもの
マイクロサービス構成のECサイト(ユーザー管理、商品カタログ、カート機能など)
結果:コストと時間
総コスト:約90ドル(約13,500円)
| モデル | 費用 | 用途 |
|---|---|---|
| ChatGPT 5.1 | $10.76 | 要件定義 |
| Gemini 3.0 | $16.64 | 設計・ふりかえり |
| Composer 1 | $28.32 | 実装 |
| Auto(不具合対応) | $22.19 | トラブルシュート |
| 合計 | $89.13 |
使ったトークン数は約2.1億。文庫本に換算すると2,000冊分くらいの情報量です。
開発時間:約7時間
- 30分に1機能くらいのペースで実装が進みました
- バックエンド・データ管理は完成、フロントエンドも基本機能まで到達
うまくいったこと
1. Gemini 3.0 のコスパが良い
ChatGPT と比べて圧倒的に安いのに、日本語のドキュメント生成がすごく自然でした。設計書やふりかえりレポートを書かせるなら、今のところ Gemini が一番バランスが良いと感じています。
2. AIモデルの使い分けが効いた
- 最初の方向付け(計画)は高性能な ChatGPT 5.1
- 大量のテキスト処理(設計・レビュー)は安い Gemini 3.0
- ひたすらコードを書く作業は Composer 1
この組み合わせで、コストを抑えながら品質も維持できました。
3. 実装スピードは本当に速い
「30分に1機能」は誇張ではなく、AIが書いたコードをレビューして承認するだけで次々と機能ができていきます。従来なら数週間かかる作業が数時間で終わる感覚です。
失敗したこと
1. 「脳が壊れる」問題
2つの機能を並行で作ろうとしたら、AIの実装速度に人間のレビューが追いつかなくなりました。
A機能のコードを確認している間に、AIがB機能を完成させて「次どうする?」と聞いてくる。頭の中でAとBを切り替え続けた結果、数時間後には「今なにを確認してたんだっけ?」という状態に。
教訓:並行開発は2機能が限界。それ以上は人間がパンクする。
2. E2Eテストをサボった
各マイクロサービスの単体テスト(Jest)はAIが完璧に書いてくれていました。API単体で叩けばちゃんと動く。
でも、フロントエンドとつなげてブラウザで動かそうとしたら、画面遷移すらしない。
原因は、Playwright などを使った E2Eテスト(全体を通して動くかの確認)を最初から入れていなかったこと。AIは「部品」の品質は保証してくれるけど、「製品として動くか」は見てくれません。
教訓:E2Eテストは最初に設計しておく。後から入れると手戻りが大きい。
3. マイクロサービスはやりすぎだった
AIからも「この規模ならモノリスで十分」と言われていたのに、実験だからとマイクロサービスを採用。結果、サービス間の連携でハマって、修復に数時間かかりました。
教訓:AIのアドバイスは素直に聞いたほうがいい。
次にやるならこうする
1. E2Eテストファースト
開発の最初に Playwright でテストシナリオを書いておく。実装はAIに任せて、テストが通るかどうかで品質を担保する。
2. 認知負荷を減らす工夫
- 並行開発は2機能まで
- Prisma Studio などGUIツールを最初から使う
- 定期的に「今どこにいるか」をAIに確認させる(
kiro/statusなど)
3. モデルの使い分けを徹底
| やりたいこと | 使うモデル |
|---|---|
| 計画・難しい問題 | ChatGPT 5.1 |
| 設計・ドキュメント | Gemini 3.0 |
| コーディング | Composer 1 |
まとめ
AIと一緒に開発すると、スピードは確実に上がります。7時間で動くECサイトができたのは事実です。
ただ、速すぎて人間が追いつけなくなる問題や、AIが見てくれない領域(E2Eテスト)を人間がカバーしないといけない問題も見えてきました。
「AIに任せる部分」と「人間が握る部分」の線引きが、これからのAI開発では一番大事になりそうです。
次は E2Eテストを最初から組み込んで、もう少しスマートにやってみます。
