「プロトタイプだから品質は気にしない」でいいんだっけ? 検証を止めないための品質の考え方

はじめに
プロトタイプ開発の現場にいると「どうせ捨てるんだから品質は気にしなくていい。とにかくはやく作ろう。」という言葉を耳にします。私自身も、以前は「スピードこそが正義」だと信じていました。
でも、開発と検証を繰り返すうちに、少しずつ違和感を覚えるようになりました。
それは、「1回見せて終わりのデモ」と、「フィードバックをもらいながら何度も動かしていく検証」は、求められるものがまったく違うのではないか?という違和感です。
検証を続けていく中で、毎回バグで動きが止まったり、少し直しただけで別の場所が壊れたりすると、フィードバックをもらう以前に、検証そのものが止まってしまいます。
その結果、「速く作ったはずなのに、検証は一向に前に進まない」という状況に何度もぶつかりました。
そこで考えるようになったのが、
プロトタイプ開発における本当のスピードとは、「1回きりの速さ」ではなく、「検証を止めずに回し続けられる状態そのもの」なのではないか、ということです。
この記事では、製品としての完成度は追わない一方で、検証を前に進め続けるための「検証品質」 として、どんな点だけは意識したいのかを整理していきます。
1. 私たちが守りたい「検証品質」とは?
私が考えるプロトタイプでの品質とは、「この検証で本当に知りたいことに、ちゃんとたどり着けるか」 という点です。
もう少し噛み砕くと、検証品質は次の2つが揃っている状態です。
- 狙ったフィードバックが返ってくる設計になっていること
(聞きたいことが曖昧だったり、操作に迷わせたりして、本題と違う感想が出てこない) - その検証を何度やっても、同じように確認できること
(環境や偶然に左右されず、「さっきは動いたのに…」が起きない)
例えば、新しいアプリの操作感を確かめたいのに、画面がガタガタしていたり、ボタンが反応しなかったりするとどうでしょう。ユーザーの意識はアイデアそのものではなく、「使いづらさ」や「不具合」に引っ張られてしまいます。
こうした検証を歪めるノイズを減らし、知りたいことだけに集中できる状態を作ること。
それが、プロトタイプ開発で私たちが守りたい「検証品質」だと思っています。
2. どこを「手抜き」して、どこを「頑張る」か?
限られた時間の中で、すべてを完璧にするのは不可能です。検証の目的に合わせて、戦略的に「手を抜く場所」を決めておくのがスムーズに進めるコツだと考えています。
| 検証の目的 | 優先して守る点(検証品質) | 今回は割り切って捨てる点(製品品質) |
|---|---|---|
| アイデアの検証 | ・価値や狙いが誤解なく伝わるストーリー ・「何の課題をどう解くか」が一目で分かる構成 | ・見た目の作り込み ・細かいUI調整や装飾(ラフな方が率直な意見が出やすい) |
| 使い勝手(UX)の検証 | ・主要導線が迷わず通れること ・操作に対する反応が十分に速いこと ・入力→処理→結果の状態遷移が破綻しないこと | ・データの永続化や履歴管理 ・例外ケースの網羅(ハッピーパス以外は後回し) |
| 技術的な検証 | ・失敗時に原因を追えること ・入力/外部連携/エラーが分かるログや可視化 | ・画面のデザインや体裁 ・操作性の細かさ(極端な話、文字だけでもOK) |
3. 「とりあえず見せる」で私が失敗したこと
こうした線引きをしていても、実際の現場では「とりあえず見せてみる」判断をすることもあります。
目的を決めずに「まずは反応を見よう」とデモをすることもありますが、これには少し注意が必要です。
目的が曖昧なまま見せると、感想が「何となくいいですね」という薄いものに終わってしまいがちだからです。私も「結局、次に何を直せばいいんだっけ?」と途方に暮れたことが何度もあります。
たとえ手探りの状態であっても、次のような 「どんな種類の反応を引き出したいか」 の範囲だけは定めておくことをおすすめします。
- 「この機能に驚いてくれるか?」
- 「今の仕事のやり方とズレがないか?」
これが、自分を助けることにも繋がります。
4. フィードバックを止めないための、最低限の「守り」
プロトタイプ開発で一番つらいのは、技術的なトラブルで手が止まる瞬間です。さっきまで動いていたものが急に動かなくなると、検証のリズムが崩れてしまいます。
だからこそ、「捨てるコード」であっても、検証を回し続けるための最低限の技術的な守りだけは押さえておきたいものです。具体的には、次のような点です。
- 「変えるところ」と「壊したくないところ」を分ける
画面の見た目は頻繁に変わりますが、計算ルールなどの「核」が壊れると検証が進みません。「ここを触ると挙動が変わる」という境界をコード上で少し意識するだけで、修正の怖さが減ります。 - 「これだけ動けばOK」をすぐ確認できるようにする
全てのテストは不要ですが、「このメインルートだけ通れば今日の検証はできる」という経路を決めておきます。数行のメモやスクリプトがあるだけで、デモ前の安心感が違います。 - 「なぜ動かないか」がその場で分かるようにする
プロトタイプが壊れるのは仕方のないことです。問題は「なぜ壊れたか分からない」こと。エラーの内容や外部APIのレスポンス、入力値がログで少し見えるだけで、「今日は諦める」ではなく「直して続ける」を選択できるようになります。 - どこでも何度でも動かせるようにする
「自分のPCでは動くのに!」は検証を止める最大の原因です。Dockerや手順書で環境を整えることは重要です。さらに、私はプロトタイプでもCI/CDを組みます。 デプロイの手間という「小さな摩擦」をゼロにすることが、検証を止めないための工夫です。
結論
プロトタイプ開発における「高品質」とは、完璧なコードを書くことではなく、「ムダなノイズを減らして、最速で確かなフィードバックを得られる状態」 を作ることだと思います。
製品としての完成度をどこまで削り、その分「検証品質」をどこまで高めるか。この「前向きな手抜き」こそが、開発スピードを加速させる鍵となるはずです。
次回予告:AIと一緒に「検証品質」を守る方法
最近は生成AIを使って爆速でコードを書けるようになりました。でも、速度が上がる分、「どこが壊れたか把握しきれない」という新しい悩みも出てきました。
次回の記事では、AIを味方につけながら、どうやってスピードと検証の確かさを両立していくか、私なりの試行錯誤をまとめてみたいと思います。
