アジャイルな組織に「固定された予算」はいらない──脱予算経営への挑戦

クリエーションライン株式会社CFOの岡です。3月決算の多くの会社は今頃予算策定の最終段階を迎えているところかと思います。今回のテーマは予算についてお話ししたいと思います。

はじめに:なぜ今、予算を問い直すのか

私たちの会社は、エンジニアリングを核としたアジャイルな組織文化を大切にしています。変化の激しい市場において、昨日の正解が今日の正解とは限らないことを、私たちは日々の開発現場で実感しています。

しかし、経営の屋台骨である「予算」はどうでしょうか? 1年も前に決めた固定的な予算(計画)に縛られ、目の前のチャンスを逃したり、形骸化した数字を追いかけたりしてはいないでしょうか。私たちは今、この「予算と会計」のあり方をアップデートしようとしています。

会計制度と予算の「実は深い」関係

そもそも、会計と予算は「過去」と「未来」を繋ぐ双子のような存在です。

  • 財務会計(過去):法律に基づき、実績を正確に記録する「通信簿」。
  • 管理会計(未来への判断):内部で意思決定を行うための「羅針盤」。
  • 予算(計画):管理会計の一部であり、これまでは「リソース配分のルール」として機能してきました。

従来の会計制度では、この「予算」を絶対的な基準とし、実績とのズレ(予実差異)を管理することに重きを置いてきました。しかし、これは「ウォーターフォール型」の経営です。一度決めた計画を完遂することに固執し、柔軟性を損なうリスクを孕んでいます。

エンジニア文化と「脱予算経営」の親和性

そこで私たちが導入を決めたのが、「脱予算経営(Beyond Budgeting)」です。「脱予算経営」とは、1990年代後半に欧州で提唱された経営モデルです。単に予算を廃止するのではなく、中央集権的な統制を捨て、「変化への適応」と「現場の自律」を最大化することを目的としています。

実は、この考え方はアジャイル開発の哲学と驚くほど似ています。

  • 固定から相対へ:前年比や目標値という絶対評価ではなく、ベンチマークや市場環境に基づいた「相対的な評価」を行います。
  • 中央集権から権限移譲へ:本部の承認を待つのではなく、現場のチームが状況に応じてリソースの使い方を判断します。
  • 柔軟なローリング予測:1年単位の固定予算ではなく、四半期や月単位で予測を更新し、常に「今」に最適な判断をします。

これは、スプリントごとにレトロスペクティブを行い、バックログを柔軟に組み替えるエンジニアの思考プロセスそのものです。

私たちの「スクラムの実践」を経営に接続する

私たちが日々実践しているスクラムの三本柱「透明性・検査・適応」は、脱予算経営においてもそのまま中核となります。

① 透明性:情報の民主化

スクラムにおいてバックログや進捗が全員に見えるのは、全員が「正しい判断」をするためです。脱予算経営でも同様に、財務情報やコスト状況を可能な限り現場にオープンにします。 「今、自分たちのチームはどれだけの価値を生み、どれだけのコストを使っているのか」を透明化することで、現場のエンジニアが自律的にリソース配分を考えられる土壌を作ります。

② 検査:固定予算から「ローリング予測」へ

1年間の固定予算は、いわば「巨大な初期要件定義」です。これを廃止し、私たちは四半期や月単位で最新の予測を更新していくローリング予測を導入します。これは、スプリントレビューで進捗を検査し、次のスプリントの計画を立てるプロセスと同じです。常に「今、もっとも投資すべき場所はどこか」を検査し続けます。

③ 適応:リソースの動的配分

「予算がないから、新しい技術検証ができない」という停滞をなくします。予算の壁を取り払い、現場のチームがビジネス価値を最大化できると判断すれば、柔軟にリソースを動かせるようにします。計画を守ることではなく、価値を生むことに「適応」する組織を目指します。

「脱予算」は「無計画」ではない

よくある誤解ですが、予算をなくすことは無計画に散財することではありません。むしろ、従来よりも高いレベルの「規律」が求められます。

これまでは「予算内だから使っていい」という受動的な判断でしたが、これからは「この投資は本当にユーザー価値に繋がるのか?」という能動的な問いが全員に求められます。これは、スクラムにおいてプロダクトオーナーがROI(投資対効果)を最大化しようと苦心するプロセスを、会社全体に広げる試みでもあります。

私たちが目指す未来

脱予算経営への移行は、単に「予算をなくす」ことではありません。会計制度を「管理の道具」から「自律のためのフィードバック・ツール」へと進化させる挑戦です。

エンジニアが「何を作るか」だけでなく、「その投資がどう価値を生むか」を自分たちで考え、迅速に軌道修正できる組織。そんなアジャイルな文化を、経営の仕組みからも支えていきたいと考えています。

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