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万の道、万のプロを訪ねて Vol.1

 ★ 75

今回のインタビュイー

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 完成車開発統括部
車両企画管理部 生産製造企画課(C) 船戸 康弘さん

本田技研工業株式会社様の導入事例はこちら

これまでの取り組み

仕事柄、色々なところでソフトウェアづくりを通じて会社・社会に影響を与えようとしている人達のお目にかかる機会があるが、既に巷によく知られている歴史の長い大企業ほど、成功した時に社会に与えられるインパクトも大きいが、難しさも大きい。どこも誰もみんな大体苦労をされているのである。それは、船戸さんも例外ではない。

船戸さんについて調べてみると、製造業アジャイル勉強会での発表の岩切さんによるレポを見つけ、読み耽ってしまった。同じテーマでAgile Japan 2019に発表された資料も見られる。やっぱり成功・満足を作っていくのが大事なのだ。最初から、野心的で横断的な取り組みをする人達もいるが、中々うまくいかない。回り道なようでも、成功を一つ作り、二つ作り、だんだんそれを広げていく以外に方法はないようだ。現場主義というのもとても素敵だと思った。成功を作るためにはお客さん、この場合は、工場の現場にいる人達のところにいってその人達と一緒に彼らの役に立つソフトウェアを作る。僕が作ってうまくいったソフトウェアも、自分の身近なニーズを解決しようとしたものばかりだ。同じモノ作りでも、そっちの方がずっと楽しい。

言うは易く行うは難し

次に目を引いたのが、内製化だ。色々な人言っているから理由を延々とは説明しないが、僕もCI/CDを応援してきた経験から外注という契約構造では優れたソフトウェアづくりの文化は育たないとずっと思っている。でもそんな事は当然みんな分かっているのだ。みんなが知りたいのは、どうやったら外注から内製に切り替えることが出来るのかという話である。それをHONDAでやったというのだから、これを皆が真似できたら日本を支える会社のソフトウェア力はぐっと良くなるに違いない。

これについて話して学んだのは、正社員の枠を作るのが難しいのは、間接部門に共通の問題だという事だ。売上に直接貢献しないし、効果が定量化できないと、人を雇うという決断を合理化するのが難しい。僕はずっとソフトウェアを売る会社で働いてきたが、そんな会社だってエンジニアがもっと必要だというのを合理的に説得するのはとても難しかった。ソフトウェアを売ってない会社ならましてやだろう。他の間接部門、例えば総務とかではこの問題をどういう風に解決しているか情報交換できれば新たな道が開けるかも知れない。また、船戸さんのチームでは準委任契約や業務請負という形でチームに多くの人を迎えているそうだ。確かに、大事なのは社員かどうかじゃなくて、彼らのソフトウェアづくりの仕方をコントロール出来るかどうかだ。成果物を買うんじゃなくて、時間を買うならOKだ。

願い事には気をつけよ

人・モノ・金の話でもう一つ面白かった事がある。ソフトウェアは建売住宅と違って、作る所だけに手間暇が発生するんじゃない。動かしていく方にこそこれが発生するのだ。僕はこれをソフトウェア開発は育児的だという表現をしてあちこちで発表して回っている。サービスは、始めるより終えるほうがずっと難しい。でも、ソフトウェアを知らないお客さんはそう思わない。作って放置していたらそのまま動きつづけるでしょ、と思っている。

船戸さんのところはそういう苦労はないですかと聞いたら、逆ですという。船戸さんのチームが作ったソフトウェアが工場の工程に採用されたとする。現場の人は、それを長い間継続して使える必要がある。プロセスが変わったりした時に小変更が必要になることだってある。その時に責任を持って見てくれるのか。どのくらいのコストが発生するのか。向こうから聞かれるそうだ。運用保守にお金がちゃんと出るなんて羨ましい、と思ったが、良い事ばかりでもないらしい。ちょっとした事でも、長期間に渡る費用対効果が検証されなくては実行に移せない。何かを始めるにあたって腰が重くなり、企画書を作って説得するのに多くの時間が必要になる。スタート地点に辿り着けなかった企画もあるだろう。

乱暴を承知で言えば、人は夢や物語や恐怖で説得されるのであって、費用対効果なんていうのは、自分が説得された後に周囲に後ろ指さされないようにするための辻褄合わせだと僕は思っている。だから、逆に、組織としてきちんとこういう取り組みをする文化には敬服をした。中の人は辛いだろうけれども。

当たれば青天井

そして、これが現場に密着して一人ひとりのユーザーを幸せにするモノ作りの限界でもある。お客さんが個別だと、提供できる価値がどうしても限られてくるから、ソフトウェアの本質であるスケーラビリティ、「当たれば青天井」を活かすことが出来ない。費用対効果を個別に判断して...という風にどうしてもなってしまう。
ソフトウェアで会社にインパクトを与える、この観点からいえば船戸さんは既に大成功なのであるが、その成功故にぶつかった次の壁がこの壁である。より大きなインパクトを、より小さなコストで。

敵と団結せよ

この話をしながら、僕はXML関連技術の標準化に関わっていた時の事を思い出した。標準化組織というものにイメージが湧かなければ、国連だと思ってもらったらいい。色々な国ならぬ会社の代表が参加してくる。互いの利害を調整し、落とし所に持っていく、それが一番の役割。でも、ここに参加している外交官ならぬ技術者には、独特の連帯意識もあるのだ。我々が力を合わせて、みんなの会社の力を結集できたら、一つの会社だけでは出来ないような大きなインパクトを与える事が可能になる。その夢を信じているから、利害の調整なんていう地味で辛い仕事が出来るのだ。

ソフトウェアの力で会社を、世界を変えようと思っている人は、同じ問題意識を持っている別の会社の人ともっと連帯するべきだ。国連の外交官のように。意見交換でもいい。他の会社はこうやっていますよという恐怖で会社を説得するのでもいい。更にもう一歩踏み込んで、一緒にソフトウェアを作れたら最高だ。最近のオープンソースには、そうやって特定業界が横断的に取り組んでいるものが散見される。必要不可欠だけど差別化にならないものは一緒に作る。間接部門である事を逆手に取った素晴らしい戦略だと思う。より大きなインパクトを、より小さなコストで。

出島を作る

もう一つ船戸さんと話した事がある。歴史ある大きな組織は大きな船のようなもので、船長が舵を切ってもなかなか曲がらない。偉い人ならなんでも出来そうに思うかもしれないが、実は逆で、上に行けば行くほど、自分が直接コントロール出来るものは減ってゆくのだ。思い通りにはなかなかいかない。だから、何かが成されないといけないという危機意識が船長の中で高まると、自分の意志を体現した人を抜擢して、お金と自由裁量を与え、今までの組織とは独立した小さな組織を作ってそれに賭ける、という作戦に出る事がある。その成功で母体の変革を促すための、会社の中の小さな会社。僕はそれを「出島」と呼んでいる。

スカンク・ワークスのように、超有名な大成功例もあるが、失敗例も沢山ある。僕の身の回りでも色々見た。大きすぎる期待、出島の外からの敵意。黒船に来航されるのが好きな人もそうはいない。でも、どこかで出島を成功させている人もいるはずだ。現に日本は欧化されたわけだし。ソフトウェアの世界で、出島を作って成功を導き、母体の変革に繋がった事例はないだろうか。どこかにそういう知見のある人はいないだろうか。ぜひ話を聞きに行きたいと思った。

第三の道

より大きなインパクトを、より小さなコストで。船戸さんが今、実際に取り組んでいるのは、国連でも出島でもない、第三の道である。船戸さんはそれを「会社のビジネスモデルを広げる」と呼ぶ。僕は、会社の売上に直接貢献する仕事、と受け取った。例えば、Mobility-as-a-Service。ひょっとしたら会社の主力の事業を塗り替えるかも知れない可能性のある分野だ。それは確かに面白いだろう。大きな視野ではDigital transformationといったりSoftware is eating the worldと言ったりするが、会社規模の視野でみたら、まさにこういう事だ。会社にデジタルの中枢みたいなところがあり、そこと一緒にやると大きなインパクトを作るチャンスがある。そういうモノ作りはお抱えベンダーに行ってしまうのが今までの流れだったが、船戸さんとチームの力でここが内製に切り替わっていけば、面白いことになるかもしれない。

船戸さんの主戦場が切り替わるにあたって、従来の工場の生産性向上はどうなってしまうのだろうか。未来の会社の主力事業も格好いいが、今の会社の主力事業だって違うカッコ良さがあるのだ。そう聞くと、船戸さんは、そっちも並行してやっていくと言っていた。使う技術やモノ作りのやり方は同じ、作るものやユーザーが違うだけ、と。

とても明るい話だと思った。会社の中にソフトウェア作りの種菌を作っていく。最初の種菌は社内で成功を作ることで養い、それをバネに、ソフトウェア本来のスケーラビリティを発揮する大きなプロジェクトに取り組んで、あちこちに広がっていく。いつぞや流行ったカスピ海ヨーグルトを思い出した。牛乳にヨーグルトを一匙落として寝かせると全体がヨーグルトになる。クリエーションラインもその種菌の一部なわけだ。

HONDAが全部ヨーグルトになるとどうなるのか、とても楽しみだ。

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