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万の道、万のプロを訪ねて Vol.2

 ★ 8

今回のインタビュイー

成迫剛志さん (クリエーションライン株式会社 社外取締役)

二回目のインタビューは、成迫剛志さん。成迫さんは、クリエーションラインの社外取締役をされたり、大企業でデジタルイノベーションを推進されたり、白熱塾という勉強会を開催されたりと幅広く活動されている。

僕が今回のインタビューで聞いてみたかったのは、既存の会社で、特に大きな会社でデジタルイノベーションをうまく進めるにはどうしたらいいのかという事だ。

あちこちのソフトウェア開発チームを訪れて感じるのは、組織に対する無力感というか、どうやったらこの組織で自分の信じる事を進めていけるのか、という悩みだ。これを解決するノウハウが広がれば、社会全体のデジタルイノベーションがより進むはずだ。

そういう話を成迫さんにしたら、このリストを送ってくれた。デジタルイノベーションを進める人に必要なスキルのリストだそうだ。これはスタートアップのCEOに求められるスキルと読み替えてもほとんど違和感がない。

成迫さんは、スタートアップよりは大企業の中でのイノベーションの方が日本には向いているのではないかと言っていた。人材の流動性も低い環境では、正社員であり続けられる事の安定感は大きい。そうかもしれない。僕も大企業からスタートアップに最初に転職した時は嫁さんの説得が大変だった。でも、その大きな会社(Sun Microsystems)はもうない。

リーダーとメンバー

成迫さんの描くデジタルイノベーションの組織にはリーダーとメンバーが登場する。

リーダーは経営陣の中にいて、会社にとってのビジョンを描き、社内政治を扱い、人・物・金をとってくる人。色々なステークホルダーの問題意識を理解し、必要な「星の巡り合わせ」を待つのではなく作り、必要な合意を取り付け、成果をコミュニケートし、イノベーション組織の存続を可能にする。そうした内向きの仕事で、メンバーの人達がのびのびと仕事できるようにする「盾」を作る。成迫さんは「建て付けを作る人」と表現していた。

メンバーは、具体的なプロジェクトを手がけ、リーダーが取ってきたリソースを使って何かを実際に成し遂げる人達。この人達には、事業計画を作る力も必要だし、人間的な魅力も必要だし、ゼロからイチを作るセンスも必要だ。リストには何と21も項目がある!

なかなかどちらも敷居が高い。

前者はイノベーション組織の所長、後者はスタートアップのCEOのようなものだろうか。後者は僕にとってはリーダーなので、最初この役割を「メンバー」というのに最初若干の違和感を感じた。

自分の体験: Sun

内向きの折衝を担当するリーダーが本社に必要だというのは、僕自身の経験に照らしても納得出来る話だ。

Sunが会社として傾きつつあった頃、Skunkworksという名前で新製品を開発する部隊が設置された事があった。細かいことは忘れてしまったが、Solaris 10の新機能を積極的に使ってソフトウェアとハードウェアがイイ感じに統合された、今までのSunのシステムとは違う一風変わった製品を作るという企画だったと記憶している。

この部署はオフィスを別に構えて、イントラネットも別という本当に別会社みたいな感じだったが、既存の製品を見下すような姿勢が感じられたり、やっている事が秘密めいていたりと、心理的な距離が本社と離れすぎているように感じられた。それが原因かは知らないが、最終的にはあまりうまくいかなかった。

期待を高めすぎす低めすぎず、心理的な距離も遠すぎず近すぎず、必要な人の支援は受けられるように、そして余計な雑音は入らないように。バランス感覚が必要そうだ。

Skunkworksは社長の肝いりだったので盾の強さは充分だったのだが、盾を作っていたのが社長だったので、期待が高まりすぎたのかもしれない。大きい会社で何かを始める時の難しさは往々にして期待の高さであるように感じる。新しい事業に要求される大きな売上規模。

リーダーとメンバーの結びつき

リーダーとメンバーの両方が必要なら、リーダーとメンバーは出会わなくてはならない。これは中々難しい。

成迫さんは役員室のドアは開いているからノックせよ、という。オープンなコミュニケーション文化があるところなら言いたいことを言え、という。

僕が話した人達の中には、メンバーの方が圧倒的に多い。現場に近くて、何かをやりたいと思っている人達。でも、その多くは、会社は大きく無機質で自分の考えに興味なんか持っていないと考えている。主張が直属の上司に認められていればその範囲で力を発揮できるが、そうでない時に、直接役員室のドアを叩ける人はどれだけいるだろうか。尻込みする人は多いだろう。僕はSunに勤めていたときはそう思っていた。

一方、CTOになってみると、昔自分が想像していた事態とは全く反対であった。リーダーは組織に常に何かの変化を起こそうとしていて組織の慣性と戦っているものだ。それなのに、責任はどんどん増大しても、自分でできる事はほとんど増えないから、上に行けば行くほど人に頼らざるを得なくなり、隔靴掻痒、無力感がましてくる。大きなロボットを計器盤を見ながら少ないレバーで何とか操縦しようとするようなもの。だから、現場からの色々な意見を常に求めていて、また自分の思いに感応し、同じような変化を求める人達の事を常に探している。「役員室のドアは開いている」というのは本当にその通りなのだ。

僕が話す機会を得た数少ないリーダー達は、みんな同じ様に何かの危機感を持っていた。計画に従って粛々と秩序だって実行する姿を求めるのは、大体中間管理職の方なのだ。だから飛び越えて役員室を狙うべきだ。

自分の体験: CloudBees

僕自身がリーダー的な役割を果たした時の事を思い出した。CloudBeesのCTOをしていた時の事だ。Jenkinsは10年もののプロジェクトだから、メンテナンスをしているだけでは変化するユーザーのニーズに対応できない。でも、互換性とか色々な問題で・思い切った取り組みも中々難しい。

僕自身も、最初からこのプロジェクトに関わっていたから、知らず知らずのうちに、革新する側というよりは保守的な考えを持っていたのだろう。本来はCTOである僕こそがそういう革新的な取り組みを先導・扇動するべきだったのだが、初動が遅れた。幸い、社長がプロダクト畑出身でモノ作りに造詣が深く、僕のおしりを叩いてくれて必要なサポートをしてくれたので、ある時点で、Jenkinsを変革する取り組みを打ち上げる事が出来た。

その時に心掛けたのは、まず、マーケットや、社長を始め社内のステークホルダーの問題意識に連結する大きなテーマ・ゴールについて語ることだ。適度に壮大な物語を語らないと多くの人の賛同を得られないし、大きな盾にならない。
その大きなテーマの中で、具体的に実現可能に思える幾つかのプロジェクトを見つけ、それを主導する人を見つけようとした。壮大な物語を現場に近い色々な人にし、そうすると時々素晴らしいアイディアを持っている人にぶち当たるので、その人を焚き付けて応援し、その気にさせる。もしくは、僕のアイディアを売り込んで、誰かにそれはあたかも彼のアイディアだったかのように感じてもらう。

そうしたプロジェクトは全部は成功しないというのを予め理解して、其の旨周りの人に伝えられていただろうか、というのが今振り返って思うことだ。賭けなんだから百発百中とはいかないのは当然のことだ。失敗してもいいんだと担当している人が感じられる心理的安全性を確保するのは大事な仕事だ。

残念ながら、結局このプロジェクトは途中で必要な人的資源を他に転用されてしまって消滅してしまった。リーダーとして、自分のミッションを実現するための人間は自分の配下においておかないといけなかったと強く痛感した。ステークホルダー管理にも問題があったのかもしれない。色々考えさせられる一件だった。
幸いな事に、この時の幾つかの取り組みはその後また息を吹き返したと聞いている。嬉しい事だ。

上手にリーダーを務める

僕自身はそうやってリーダー的な役割に挑戦し、それなりの手応えとそれなりの難しさを感じたので、成迫さんがどのようにリーダーを努めているのかはとても興味深かった。

外部の力を活用すること。社外の有識者が自分の言っている事と同じ事を言ってくれると、信頼度がぐっと増す。確かに、色々な人が同じ事を違う言葉で言う事が大事だ。だから、外部から顧問を招いたりする。外向けに発信して社外で評価を得ると、また信頼度がぐっと増す。また、社外に向かって発信することが、社内に向かって発信する一番の早道だったりする。

そして、リーダーの大事な役割の1つは物語の力。僕はステークホルダー・マネジメントと理解した。色々な人の問題意識に沿うところを見つける事で、応援してくれる人達を作ること。どういう会社になりたいのかというロールモデルを形成していくこと。適度な大きさの風呂敷を広げ、破壊しなくてはいけないものを減らす。そうやって、組織の中に星の巡り合わせを待つのではなくて積極的に作り出して、何かを実現する機運を作ること。

高度に政治的だ。どうやったらこういうスキルが身につくのだろうか。成迫さんは、若い時に多くの赤字を出している会社に出向させられて、それを黒字に立て直すというミッションがとても貴重な体験になったそうだ。自分では技術者のつもりだったのだが、そこでは技術も営業も政治もみんなやらないといけなかった。苦労は買ってでもせよ、と。

そんな修羅場に送り込まれて誰もが生き延びられるとも思えないが、でも小さな環境で全てやらないといけないというのが良いジェネラリストを育てるというのは分かる。僕がスタートアップが好きな理由の1つだ。また、右も左も分からない成迫青年が騙されて火事場に放り出されるような感じに面白おかしく話してくれたが、現地に送り出した上司は彼ならという成算があってやったのではないかなという気もした。試練に勝てる可能性がそれなりにある人にしか、試練は回ってこないのでは。

成迫さんのこれから

僕にとってはリーダー役をうまく出来るようになるというのが1つの目標だが、それを既に達成してしまった成迫さんはこれから何を目指すのだろうか。

成迫さんが興味を持っているのは、優秀な個人を引き上げる環境だ。人材の流動性が進んだ世界、国際化の進んだ世界で、優秀な職人が集まってギルド的な仕事が出来るような、そういう場を作る。「一万人の凡人より100人のトップガン」だそうだ。芸能事務所的なものかもしれない。カリスマ美容師、トップの料理人のようなエンジニアの姿。クリエーションラインはそういう人達が集まる厳しい道場のようなものにしたいと言っていた。人を受け入れ、他の優秀な人と切磋琢磨して技術に取り組んで、それを持ってどこかに旅立って行く。

なるほど、興味は人を育てる方向へ。そういう人達の理不尽な親切を頼りまくって、僕は前へ進んでいくのである。本当にありがたいことだ。恩はいつか別な人に返しますから許してください。

<成迫剛志氏 経歴>

明治大学経営学部卒業後、日本IBMに入社し、データーベースのスペシャリストとして活躍。その後、伊藤忠商事に転じ、オープンシステム化、正歴2000年対応やインターネット関連ビジネスの立ち上げなどに携わる。2005年に香港に駐在、伊藤忠商事のIT事業会社の社長に就任し、アジア地域のITビジネスを展開。帰国後はSAPジャパン、北京大学方正集団、ビットアイルエクイクスなど国内外のIT企業の役員を歴任し、2016年8月にデンソー入社。コネクティッドカー時代のIoT推進を担当し、2017年4月にデジタルイノベーション室を新設し、同室長に就任。2018年4月新設のMaaS開発部長を経て、2021年1月から執行幹部、モビリティシステム事業グループDX推進担当に就任。クラウドサービス開発部長とデジタルイノベーション室を兼務している。

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