EBMでビジネスアジリティを引き出す!~ 書籍:Unlocking Business Agility with Evidence-Based Managementの紹介 ~

みなさんは、EBM(エビデンスベースドマネジメント)をご存知でしょうか?Scrum.orgが提唱しているフレームワークで、日本語ではサーバントワークス様が丁寧に説明してくれています。

このEBMに関する本が2023年10月に出版されていて、先に読んだ人から「よかったよ!」という話を聞いたので、年末年始にKindleの翻訳機能を片手に読んでみました。ここでは、本の内容や感想を簡単に紹介したいと思います。

書籍の概要

EBMは、EBMガイドや関連するホワイトペーパーが簡潔にまとまっていて、それらを読むだけでも十分に概要を掴めます。本書では、ガイドだけでは読み取りづらかった、EBMの背景や各要素の関連・ケーススタディが豊富に取り入れられています。

本書を読むに当たって、EBMガイドを前提知識に持っておくと理解が早いので、先に目を通しておくといいでしょう。

おすすめする対象読者

  • EBMに関する基礎的な知識は得た上で、さらに深く知りたい人
  • 現場にほどよく近いポジションで、経営層からのビジョンやミッションを具現化してゴール設定を行う人(プロダクトオーナーやプロダクトマネージャー、チームリーダーや中堅レベルのマネージャーなど)
  • 上記の人たちを支援する役割の人(アジャイルコーチ・スクラムマスターなど)

書籍の目次

  1. Finding Purpose
  2. Using Empiricism to Progress Toward Goals
  3. Becoming (More) Effective
  4. Managing and Overcoming Expectations
  5. Separating the Signal from the Noise
  6. Applying EBM at the Product Level
  7. Applying EBM at the Portfolio Level
  8. Applying EBM at the Organizational Level

1~2章では、EBMの構成要素となる、価値提供やゴール設定について取り上げられています。3~5章では、EBMを導入・実践する際の引っかかりどころやよりよい運用方法を、いくつかのサンプル付きで紹介されています。最後の6~8章では、単一のプロダクトレベル〜プロダクトを束ねたポートフォリオレベル〜組織レベルに、どのようにEBMを適用していくかが説明されています。

それでは、目次に沿って各章で気になったところを紹介していきましょう。

1. Finding Purpose

ゴールの設定にあたって、以下の観点が紹介されています(なお、EBMガイドではインパクトについては触れられていませんが、概念としてセットで知っておくと理解しやすくなると思います)

名称説明
活動組織において人々が行うことミーティングへの参加、コードを書く、レポートの作成など
アウトプット組織が作成するものプロダクトや新機能のリリース、レポートなど
アウトカム顧客やユーザーが体験する成果以前より速く目的地に行けるようになった、以前より稼げるようになった、など
インパクト組織に与える(主に金銭的な)影響売上、収益など

組織が陥りがちなアンチパターンは、アウトプット&インパクトをゴールに設定するけど、アウトカムを考慮しないことです。例えば、以下のようなゴールを見たことがある方もいるのではないでしょうか。

  • 競合相手との競争に打ち勝って、売上をxx%伸ばす(インパクト)
  • そのために、zzzという新機能をリリースする(アウトプット)

このようなゴールだと、顧客への成果というアウトカムの視点が抜け落ちています。ですが、基本的にインパクトはアウトカムから生じるものであり、顧客価値への提供と無関係に達成することはできません。仮に達成できたとしても、再現性がない危ういものとなるでしょう。1

そういう背景から、アウトカムを(も)ちゃんと意識していこうという流れがあるのかなと理解しています。EBMでは、この辺を「段階的なゴール設定」「エビデンス(指標)の利用」「実験のループ」といった要素で、道筋を模索しやすくするフレームワークを提供しているわけですね。

2. Using Empiricism to Progress Toward Goals

EBMでも取り上げられている3つの段階的なゴールについて、紹介されています。著者が同じで、本書の内容とも被っているSpeed, Efficiency, and Value: Using Empiricism to Achieve Business Agilityの記事とも合わせて、整理してみます。

名称説明特徴期間計測対象
戦略的ゴール組織が達成したいと考えている重要なもの組織のミッションやビジョンに強く関連していて、そこから導出される比較的長期(たとえば3~5年)アウトカム(特に、UV:未実現の価値に焦点をあてる)
中間ゴール達成することで、戦略的ゴールに向けて組織が進捗していることを⽰すもの各ゴールの間を補完する
- 戦略的ゴールだけだと、遠すぎて、日々の意思決定には役立たない
- 即時戦術ゴールだけだと、近視眼的になって、価値を生み出せているかを見失ってしまう
中期(3~6ヶ月)アウトカム
即時戦術ゴール中間ゴールに向けて取り組む重要な短期⽬標タイムボックスを切って運用する。途中で変更しない短期(数日から4週間以内)アウトカムの他、活動やアウトプットもありうる

EBMガイドでは、各ゴールの期間や計測対象については明示されていませんが、おおよその目安として捉えておくとイメージしやすそうです。

個人的には、各ゴールの間を補完する、中間ゴールの設定が鍵となりそうと感じています。スクラムでいうプロダクトゴールに近い位置づけですが、スクラムガイドでもそこまで詳細な設定方法は触れられていなく、プロダクトゴールを意識しきれていない現場もあるかと思います。そこを、中間ゴールを含めたEBMの概念で補完・強化していけるのではと期待しています。

3. Becoming (More) Effective

計測によるスクラムチームのパフォーマンス向上」のホワイトペーパーと被ってる内容も多かったです。特に、ホワイトペーパー中の「チームのパフォーマンスを向上させる」のデシジョンツリーは、どこからEBMを適用するかを考える際の指針となるでしょう。

その他、特定の重要価値領域に注力しすぎた場合に起きうる弊害が、参考になりました。

  • A2I(効果性)を改善しないまま、CV(現在の価値)を改善しようとする
    • → なかなか改善の効果が上がらずに、燃え尽き症候群に陥るかもしれない
  • UV(未実現の価値)を理解しないまま、CV(現在の価値)を改善しようとする
    • → 改善する必要のないものまで改善しようとして、無駄な労力となってしまうかもしれない
  • CV/UVを考慮しないまま、T2M(反応性)を改善しようとする
    • → 顧客が気にしないものを提供しているだけになって、燃え尽き症候群に陥るかもしれない

4. Managing and Overcoming Expectations / 5. Separating the Signal from the Noise

4・5章は、割と似たようなことが載ってた印象です。期待やフィードバックを管理する手法として、各ゴールや重要価値指標を強調した、EBMに沿った形式のダッシュボード例が載っていました。参考になりそうだったので、「Product Goal & Sprint Goals – A Simple Example」という記事で取り上げられているオンラインベーカリーを題材にして、実際に進めるとしたらこういうのが考えられそうかなというのを当てはめたダッシュボードを作ってみました。2

EBMのゴールや重要価値領域に即したダッシュボードのサンプル

6. Applying EBM at the Product Level

戦略的ゴールマップなるものが紹介されていました。「戦略的ゴール〜中間ゴール〜即時戦術ゴール〜実験」の一連のつながりが分かりやすくマッピングされてますね。ペルソナで分割して考えるというのも、小さく実験するときや、複数チームで並列して活動する際にチームごとのゴール設定に役立ちそう。

こちらも、サンプルがあるとイメージしやすいかと思って、先程のオンラインベーカリーを題材に、ペルソナやアウトカムなどを想像(創作)してマップに当てはめてみました。

戦略的ゴールマップのサンプル

7. Applying EBM at the Portfolio Level

7章・8章の内容の一部は、ホワイトペーパー「ビジネスアジリティのための投資戦略」で、エビデンスベースドポートフォリオマネジメント(EBM-PM)としても公開されています。このホワイトペーパーも合わせて読んでおくと、理解しやすいでしょう。

8. Applying EBM at the Organizational Level

プロダクトレベルを超えた、組織レベルの話が載っています。キーワードとして、脱予算経営の話も出てきていました。ただ、自分がそこまでこの辺を手掛けたことがないため、いまいち実感できるところまでいってないですね。


読んでる途中にも、早く続きが読みたくなる本でした。今の自分にちょうどいいタイミングだったんだろうなあと思います。「これは良書だ!ぜひ広めたい!!」と感じたので、サンプル画像も交えながらブログに起こしてみました。これを機会に、EBMに興味を持つ人が増えると嬉しいですね!

脚注

  1. 「なぜ、アウトカムが抜け落ちがちなのか?」の理由の一つに、アウトカムは「組織(自分たち)」が主体ではなく「顧客やユーザー」が主体だからなのかもと思いました。他にも、EBMガイドでは、アウトプットなどは計測しやすいが、アウトカムは計測しにくいという理由があげられていますね。 ↩︎
  2. ダッシュボードのイメージを掴んでもらうことが主な目的なので、ダッシュボードの中身については詰めが甘いところがあります。具体的には、私の方で補った箇所が「プロダクトビジョンやプロダクトゴールを、EBMの3つのゴールにマッピング」「重要価値指標と数値をえいやで当てはめる」点です。この辺の中身の詰めが甘い点はご容赦ください。気になった方は、ぜひ書籍を読んでもらえれば! ↩︎

Author

大切にしている価値観:「現場で働くチームの役に立ちたい!」
そのために
- エンドユーザーへ価値を届けることを見据えつつ
- その価値を産み出すチームもより活き活きと動けるように
を目指しています!

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