【前編】CLMeetUp さくらインターネット田中さんと語る「僕らが作る未来」Vol.2

この記事は、Creationline Meetup(CLMeetup)「僕らが作る未来」Vol.2 の内容を書き起こしたものです

僕らが作る未来シリーズとは

CLMeetUpは「喜びあるエンジニアライフを送るために、登壇者と参加者がともに学ぶ場を作りたい」そんな想いから立ち上がったMeetupです。

経営者の頭の中身を理解し働くための「社長が社長に聞く」僕らが作る未来シリーズは、経営者が経営判断を迫られたときにどんなことを意識しているのか、会社の方向性/将来に向けて普段どんなことを考えているのかなどをお聞きしたいという、クリエーションラインの社長 安田の思いが形になった企画です。

ゲスト:さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕 さん

自己紹介をお願いします

田中さん:はい、田中邦弘です、よろしくお願いします。Twitter、フォローしてください(笑)さくらインターネットの社長をしております。

26年前に高専の学生でロボットを作っているときに起業しました(1993年入学、1998年卒業)。そのころ日本経済はガタガタになっていたのですが、インターネットは勃興し始めていました。私はサーバーが好きだったのでサーバーを友達に貸していたのですが、それがそのまま起業につながりました。

田中 邦裕(Kunihiro Tanaka)
代表取締役社長 / 最高経営責任者

1996年舞鶴高専在学中にさくらインターネットを創業、2005年マザーズ上場、2015年東証一部(当時)へ。元々はエンジニアでありながらも、自らの起業経験などを生かし、多数のスタートアップ企業のメンターやエンジェル出資を行うほか、IPA未踏プロジェクトマネジャーとして学生エンジニアの育成にも携わる。
また『テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校』をコンセプトとする『神山まるごと高専』の理事として、高専の新設にも関わっている。現在は沖縄に移住し、自ら率先して新しい働き方を実践している。

最近の活動について教えてください

田中さん:最近はスタートアップ企業、上場しようとしている企業のメンターを務めたり、上場したスタートアップ企業の社外取締役をしています。例えば、徳島にできた神山まるごと高専の外部理事と企業の講師や、高専の運営協議会の運営をしています。業界団体に関連する活動ではソフトウェア協会で会長を、日本データセンター協会の理事長を務めさせていただいています。

活動の背景を伺えますか?

田中さん:18歳で起業して27歳で上場するまで、時間はかかりましたが若い時に多くの経験をさせていただきました。失敗の多い人生でもあるので、そんな中でいかに起死回生したかが現在の活動の糧になっています。

さくらインターネットについて教えてください

田中さん:“「やりたいこと」を「できる」に変える”を社是としています。私の現体験から、インターネットの素晴らしい点はそのテクノロジーだけでなく「カルチャーを変えた」ことであると考えています。インターネットの世界がなければ、私のようにサーバーを立ち上げるところからはじめて最終的に上場に至るというようなことは起こりえなかったと思います。今そのような状態にある企業がとても多いので、そういう企業を支援するのが私たちのあるべき姿だと考えています。

支援している企業にはテック系のスタートアップが多いです。最近はDXの流れでITリテラシーを上げることを課題にしている企業が多くなってきていますので、そのあたりでビジネスチャンスが広がるのではと考えています。

拠点は北海道石狩のデータセンターがあるほか、新拠点として2024年2月に沖縄に開所が決まっています。

沖縄移住のきっかけは何ですか?

田中さん:趣味のスキューバダイビングや仕事で沖縄にはよく来ていました。コロナ前でホテルや飛行機の料金が値上がりしていたころに、沖縄に住むという選択肢もあるかなと家族と話していました。調べてみたら沖縄の家賃が安いことが分かったので、家を借りました。それでもほとんど東京にいる生活をしていましたが、コロナ禍で在宅勤務を全面採用になったのが長く沖縄にいるようになったきっかけです。そしてコロナ禍が長引く中で流れるようにそのまま移住しました。

最近家を買って、住宅ローンのために住民票も那覇市に移したのですが、沖縄にいるのは3〜4割くらいです。東京が4〜5割、大阪が1割くらいです。

在宅勤務、決済処理には何か工夫をされていますか?

田中さん:上場にあたって印証管理規定を設けていますので、総務担当者が厳重に管理された代表印を代わりに押すワークフローを作って対応していますが、実印が個人で必要な時やサインが必要な時に困りますね。ハンコは総務に代行してもらえますが会社のサインは自分でしなくてはいけない、一部残った紙の業務に翻弄されます。

ただ一方で、先日作った子会社ではマイナンバーカードだけで登記の処理をしました。一切書類は出さずに、カードリーダーでPDFに電子署名して司法書士さんに提出してもらいました。ですから、今はやろうと思えばできますね。

多数のスタートアップ企業のメンター

田中さん:以前はなんでも受けていたのですが最近は忙しいのであまりやっていないのですが、出資先が40社くらいあって、個人的にエンジェル投資をやっているので、彼らのメンターもしなくてはいけないんですね。ただ、40人はメンタリングできませんので、「田中ブラザーズ&シスターズ合宿」という出資先のコミュニティをFacebook上に作って、そこで個別にメンタリングしたり、年に1〜2回のイベントで集中的に壁打ちしたりしています。

それ以外にEO(アントレプレオーガニゼーション:https://eotokyo.org/)がやっているメンタリングプラットフォームで2社対応しています。こちらはEOの事務局が選んできて、大阪のライジングというプログラムと、EO全体のメンタープログラムでマッチングされた方たちをメンタリングしています。

また、個別でディープランニングコンテストやプログラミングコンテスト等のイベントに入賞した人にメンターをつけることがあります。色々な仕組みの中でマッチングされてお引き受けしているケースが多いですね。

出資先は事業内容ではなく人を見て決めます。起業家はやることがコロコロ変わるので人を見るしかない、その経営者が逃げないかどうかに尽きるかなと思います。別な言い方をすると、コミュニティに根差して活動している起業家の場合は、つながりを大事にしている経営者かどうかと言いかえてもいいかもしれないですね。出資で失敗したケースもないです。

エンジェル投資で返ってこなかったケースは何件かありますけれど、失敗したなというようなことはないと思います。投資額は50万から多いと500万円くらいです。エンジェルラウンドで高額投資している経営者もいますが、それならたくさんの経営者に機会を設けたほうがいいと個人的には思います。また、スタートアップの調達環境が比較的良かったころは、出資者は私でなくてもよいのではないかとなったことがありました。

コーチングについて

(Hello, Coaching! 編集部『コーチとメンターの違いは?』についての質問)

田中さん:コーチングを通して考え方が変わって、やっぱり人が大切だと思うようになりました。以前は他者を自分の分身としてしか捉えていない時期があって、業務で必要だからというだけで人材やリソースを案件のためだけに取ってきたり、経営者としてもそんなに人に期待しなかったりということがありました。最初から「どうせ辞めるだろう」というような人間関係になると実際にそれが顕在化するんですね。だから、私自身コーチングする中で自分に課題が多いなと感じました。

私は他者に対して距離を取ってしまう傾向があります。例えば、「タメ口」で話すことが苦手で、学生に敬語でさん付けすると「距離を取られている」と思われるようで、どういうときがタメ口でどういう時が敬語がいいのか悩んで相談に行ったりすることがあります。多分、嫌われたくなくて、嫌われないようにするあまりに好かれることもないと(思っているのかな)、ちょっと離れた人からはいい人に見られるけれど、近い人からすると「近くない」、ということがあるタイプです。

でも最近は、歳をとったということもありますが、遊んだりコミュニティに入ったり、前よりも人づきあいが深くなったと思います。また、社員に関しては「リソース」ではなく雇ったからにはやっぱり幸せになって欲しいなと、そういうところは変化があったと思います。

中長期で働いてもらって辞めずに活躍し続けたり、スキルで伸び悩んでいても周りに貢献したら他のメンバーから「ありがとう」と言われたり、働いていてよかったと思える環境を作りたい、なかなかそうなっていかないことは経営課題と考えています。いいキャリアを選んで欲しいなと、ここ5年、10年でそういう風に思うようになりました。

評価制度について(「さくらネット、年俸制廃止」の記事を受けて)

田中さん:まず、できるだけ長く安心して働ける会社を作りたいと考えています。それから、ビジネスは多元的に成り立っているものなので、成果を上げる人、誰かだけを評価するというのは不公平だと思っています。

スキルで見ると何かができるできないとなりますが、この人がいなかったらこうならなかった」ということが世の中たくさんある、ということは1人1人の価値には差があるし、重要だと考えると、周囲に対してこの人がいるからこの企業は成長するよね、という人は探し続ける必要があって、そしてその人たちの評価は高めないといけないと思います。みんなで仕事をしているので、周囲のスキルを高めたり、ポテンシャルを上げたりしていけるような人、チームをよくしていける人、人柄も含めて、多面的な評価が必要になってくるなと思いますね。

それから、誰を出世させるかもとても重要ですね。西郷さんの言葉に「功あるものには禄を、徳あるものには地位を」というものがあります。成果を出したら給与をあげて、周りから慕われる人を出世させよ、という話ですけれども、今の日本の年功序列はまったく違っている。年齢が上がれば給与が上がる、やりたくない人の給与を上げるためにポジションを作るといったようなこともある。マネジメントは経験が必要ですが、向き不向きもありますから、本当に面倒見のいい人が出世するとか、1人1人を丁寧に見ていく必要があるんだろうなぁと思いますよね。

2022年に実施した評価制度について教えてください

2021年までの評価制度「ステップ4」では、大体650万円くらいまでの等級が決められていて、年俸で相対の評価でした。でも2000万円くらいまでの等級を決めておかないと、年俸制=特殊な人のようになりますし、600万から650万くらいでほとんどの人が頭打ちになるという話になりました。それで、出世しなくても、役職につかなくてもその人の能力と周囲に対する良い影響さえあれば1000万を超えられるように、「ステップ5」以上の等級を作るという変更をしました。評価制度自体を大きく変えたわけではないです。

査定会議や全社員の給与を年2回、役員全員で眺める(3日間くらいかかって大変なんですが)ことをしています。その中で、もっと評価されても良かったのではないかという人や、制度上の矛盾が見つかったり、それから長くやっていると転職しないと100万円単位で給与を上げられないというのが出てきますが、転職しなくても年収を上げられる制度にしたほうがいいんじゃないかというアイデアが出たりしています。

あとは、新卒の社員でもう少し初任給上げられないかという意見がでました。2021年までは新卒は最下位の等級から始まっていたんですけれど、今は最下位からではない。それでそれはおかしいんじゃないかということになって、かなり広くいろんな人の意見を取り入れて制度化しました。来年(2024年度)は残業別で29万が初任給で、他の上場企業が20〜21万くらいと聞きますので、1.5倍くらいになっています。

制度を決めるうえで参考にしている企業は特にないですが、どの会社というよりは「それは面白いな」というものはあります。例えばサイボウズの青野さんは私のメンターをやってくれるので、色々教えてもらうことはありました。

さくらでアップデートして変えてきたところは、1人1人で言っていることをわがままだと言わずに取り込んでいこうという姿勢です。青野さんの場合は、制度がすごいというよりも考え方や経営者の行動が違っていただけだと思います。だからそこは経営者として見習うことも多くて、同じことをやっていても同じ結果にはならない。経営者のスタンスだと思います。

査定会議の時でも、成果を上げていて調整能力も高い人がなぜこの給与なんですかという話が出ます。給与を上げない理由を色々つけるんですけれど、それもおかしいよねとなって、そういう人が自分の給与に気づいて、「辞める原因が給与ならもうちょっとあげるよ」、「そういうことが嫌で辞めるんです」と、信頼関係がなくなってしまうので、やっぱり丁寧にやらないといけないと、これは26年の中で学んだことです。

>>後半の記事へつづく

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