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【CAIO・AI CoEシリーズ】AI の戦略的専門組織「AI CoE」とは? AI CoEの役割と立ち上げるために必要なこと。

はじめに

AI CoE(人工知能センター・オブ・エクセレンス)は、組織内での人工知能(AI)の導入や活用を促進するための重要な取り組みです。組織がAIを成功裏に導入するためには、適切な戦略、プロセス、技術、人材が必要です。今回は、AI CoEの概要とその構築における技術的な側面に焦点を当てて紹介して行きます。

CoE とは?

CoE(Center of Excellence:センター・オブ・エクセレンス)は、特定の分野や機能において優れた知識やノウハウを集約し、組織全体の最善のプラクティスを定義・実装するための組織的な枠組みです。CoEの発祥は、1940~50年代の米国カリフォルニア州のスタンフォード大学にまで遡ります。当時、優秀な卒業生の流出を防ぐために、スタンフォード大学は全米から著名な教授や優秀なスタッフを集め、最先端の設備環境を提供し、世界的な学究拠点を構築しました。この概念は企業にも広く適用され、組織横断のチームとして、重要な意思決定に寄与する役割を果たします。CoEの設立には、社内外から最適なスキルや専門性を持つ人材が集められ、そのメンバーはメイン業務との兼任や専任で活動します。

例えば、データ解析の分野では、Data Analytics CoE(データ解析・センター・オブ・エクセレンス)が設立されることがあります。このCoEでは、データ収集、処理、分析、洞察の提供など、データに関連するあらゆる側面において専門知識やベストプラクティスを提供します。

近年では、クラウドサービスの普及と活用に伴い、CCoE(クラウド・センター・オブ・エクセレンス)を内部に設立する企業が増えています。CCoEはクラウド化を全社的に戦略的に進めるための組織で、 クラウドについて知見を持つ人材やIT関係の企画や開発部門、実際にクラウドを利用する事業部門など、クラウドの導入・運用に必要なリソースを集約させた組織です。

技術進化が急激に進んでいるAI領域においては更にCoEの役割が重要になります。AI CoE(人工知能・センター・オブ・エクセレンス)は、組織内で人工知能(AI)の導入、展開、および最適化を行うための専門部署やイニシアティブです。AI CoEはAI技術の専門知識を集約し、組織内でのAIプロジェクトの成功を支援します。具体的には、AIの戦略的な計画立案、AIプロジェクトの推進、技術的なガバナンスの確立、AIモデルの開発と運用、人材の育成と教育など、幅広い活動を担当します。

AI CoEは組織内の異なる部門やチームと協力し、AIの導入を加速し、最善の結果を達成するためのリーダーシップを提供します。その結果、組織全体の効率性や革新性が向上し、企業の競争力を強化します。

AI CoE の役割とメリット

それでは、概要を記載したところで、AI CoE(人工知能センター・オブ・エクセレンス)が組織において果たす役割とメリットについて考えてみたいと思います。それぞれ様々な考え方があるとは思いますが、以下に7つの役割とメリットを記載します。

  1. ガバナンス機能を果たして組織間の合理的な調整をスムーズに実行できる: AI CoEは、AIプロジェクトの意思統一やプライオリティ付け、複数部門との調整を行い、部署同士で協力することなく、自分たちの利益を優先する状態を排除し、ミッション達成を効率的に推進します。
  2. ノウハウ、情報を集積し全社で共有し活用できる: AI CoEは組織全体で共有可能なAIに関するノウハウや情報を集積し、知識を共有して活用することで、新たな知識を創造しながら経営を実践することを主導し、再利用の促進を可能にします。
  3. 全社として戦略を統一し、効果を測定できる: AI CoEはAI戦略の統一や効果の測定を行い、全社最適の視点から成果を評価し、経営判断に役立つ情報を提供します。
  4. 社内教育や研修で専門性の強化を図りやすい: AI CoEは定期的な研修やセミナーを通じて、AIに関するスキルや知識の共有やレベルアップを図り、社内の専門性を強化します。
  5. 経営層による権威付けでミッションの推進が容易にできる: AI CoEは経営層のコミットメントを得ており、ミッション達成に向けた業務活動を容易に推進できます。
  6. 社内の優秀な人材を確保できる: AI CoEには経営層が選抜した優秀な人材が集まり、最適な方法でAIプロジェクトを推進します。
  7. 全社ミッションとして社内文化を主導する: AI CoEは全社の協力・支援を得ながら、AIプロジェクトのミッションや戦略を立て、全社に共有し、企業文化の醸成を主導します。

これらのメリットを活かすことで、AI CoEは組織全体のAI活用を促進し、ビジネス上の価値を最大化することが大きな目的になります。

最適なAI CoE組織とは? AI CoEに求められること

実際に、どの様なAI CoE組織を作ればいいのでしょうか?ここからは、そもそもAI CoEに何が求められているのかを考えてみたいと思います。

例えば、生成AI・LLM(Large Language Model)の活用を社内で進めるためにAI CoEを自社で立ち上げる場合には、以下のような内容がAI CoEに求められると思います。

1. 目標の設定とスコープの定義

  • 目的の明確化: 生成AI/LLMの専門チームを設立する目的を定義します。例えば、組織内での自然言語生成の能力強化、AI技術の活用による業務効率化、顧客サービスの向上などが挙げられます。
  • スコープの決定: 生成AI/LLMの専門チームが担当する範囲を明確に定義します。これには、モデルの開発とトレーニング、実用化と運用、モデルの改善と最適化などが含まれます。

2. リソースと人材の確保

  • 必要なリソースの特定: 生成AI/LLMの専門チームに必要なリソースを特定します。これには、計算リソース(クラウドサーバーなど)、データセット、専門知識、ツールやソフトウェアなどが含まれます。
  • 専門チームの構築: チームメンバーを選定し、専門チームを構築します。これには、AIエンジニア、データサイエンティスト、ソフトウェア開発者、プロジェクトマネージャーなどが含まれます。

3. 技術スタックの選定と導入

  • AIモデルの選定: 生成AI/LLMの専門チームが利用するAIモデルを選定します。例えば、GPT-4やその他の生成AIモデルなどが考えられます。
  • 開発環境の構築: 必要なツールやソフトウェアを選定し、開発環境を構築します。これには、モデルのトレーニングに使用するフレームワーク(例えば、TensorFlowやPyTorch)、データ管理ツール、バージョン管理システムなどが含まれます。

4. プロセスの確立と文書化

  • AI・LLMモデル開発プロセスの設計: 生成AI/LLMの専門チームが使用するモデル開発のプロセスを設計します。これには、データの収集と前処理、モデルのトレーニングと評価、デプロイメントと運用などが含まれます。
  • モデル作成の環境構築: モデル開発プロセスや各作業手順の環境を構築し、組織内で共有します。これにより、AI・LLMモデル作業の効率化と企業の中での知見の蓄積が可能になります。

5. コミュニケーションと教育の戦略

  • ステークホルダーとのコミュニケーション戦略: 生成AI/LLMの専門チームが関わるステークホルダーとのコミュニケーション戦略を策定します。これには、進捗報告や成果共有の方法などが含まれます。
  • 従業員の教育プログラム: 組織内の関連部門や従業員に対する教育プログラムを設計・実施します。これにより、生成AI/LLMの技術や活用方法についての理解が深まります。

AI CoEについては、分析に特化したり、ツール選定に偏ったり、啓蒙活動だけに重点を置いたりする極端なケースがあるかもしれません。しかし、重要なのはバランスです。CoEの本来の目的は、教育機関における世界的研究拠点のように、優れた人材と先端技術を集約することなので、単一のミッションに偏らず、スペシャリストとしての専門性を持ちながらも、多岐にわたる能力を備えたプレイヤーがCoEの成功に不可欠になると思います。

AI CoEのアンチパターンと解決パターン

これまでは、導入する流れや、ポイントを記載しましたが、当然、AI CoEのアンチパターンもあり、本来の目的を達成する障害となる可能性も認識しておく必要があります。以下にアンチパターンについて記載します。

アンチパターン

  1. 分析のみに特化する傾向: AI CoEが分析やモデル開発にのみ注力し、ビジネスニーズや戦略との連携が不十分なケースがあります。例えば、ある企業のAI CoEが大量のデータを分析しても、その成果が組織のビジネス戦略と結びつかず、実際の業務に活かされない場合があります。
  2. ツール選定に偏る: AI CoEが新しいツールやテクノロジーの導入にのみ焦点を当て、プロジェクトの実行や成果の測定を怠るケースがあります。たとえば、特定のツールやプラットフォームにこだわりすぎて、実際のニーズにマッチしない場合があります。
  3. 啓蒙活動に偏る: AI CoEが社内での教育や啓蒙活動に主眼を置き、実際のプロジェクトの実行や成果の責任を回避するケースがあります。たとえば、トレーニングやワークショップを頻繁に開催しても、それらが具体的なプロジェクトへの貢献に結びつかない場合があります。とはいえ、トレーニングやワークショップを行うことは非常に重要ではあります。
  4. 組織との連携不足: AI CoEが他の部門や組織との連携を怠り、孤立した存在となるケースがあります。例えば、AI CoEがビジネス部門やIT部門とのコラボレーションを怠り、組織全体のビジョンや目標に沿ったプロジェクトの実行が困難になる場合があります。
  5. 成果の測定と改善サイクルの欠如: AI CoEがプロジェクトの成果を適切に測定せず、改善サイクルを回さないケースがあります。たとえば、モデルの精度やビジネスへの影響を定量化せずにプロジェクトを進め、適切な改善策を講じない場合があります。

これらのアンチパターンを意識しながら、AI CoEは企業の組織全体と連携し、事業戦略への寄与を前提にしながら、高い視座で施策の実施と成果を重視することが重要です。

生成AIの利活用を社内で進めるために

生成AIの利活用を進めるためには、どのように始めれば良いでしょうか? 一例として、社内で生成AIの利活用を進めるための流れを記載します。

上記は、社内で生成AIの導入と活用を進めるための段階的なアプローチの一例です。全体として3つの主要なステップに分かれており、各ステップには具体的なアクションアイテムが含まれています。

生成AIの導入と活用のためのステップ

ステップ1: 社内でのAIの理解と利用促進

ステップ1では、生成AIの導入として、まずは実際にAI・LLMを利用してみることから始めます。弊社では、AIコーディング支援ツールの導入と環境の整備を行い、開発チームがスムーズに作業できるようにしています。同時に生成AIの利用にあたってのガイドラインを策定し、社内での適切な使用を促進しています。また、生成AIの理解向上のための勉強会やワークショップを定期的に開催し、社内のAIに関する知識と理解を深めています。

ステップ2: 業務効率化のためのAIの利用

ステップ2では、実際の業務の中でAI・LLMを活用し効率化を図るために、業務部門からのヒヤリングと業務内容を分析し、AI・LLMの活用で業務効率化が図れそうな活動を抽出し、業務効率化のための取り組みを開始します。弊社では、営業・提案活動の企業調査・提案書作成や、サポートの対応など幾つかの領域で業務効率化の取り組みを開始しています。
また、生成AIを利用した業務効率化においては、タスクを実行するにあたって利用している知識の洗い出しを行い、それら知識の収集・修得方法の設計、利用可能な社内の知識・データを整理し、AI担当が業務データを適切に利用できる状態にします。
また利用するLLMやRAG(Retrieval-Augmented Generation)の選定、RAGで利用するデータ構造の決定などを行います。

ステップ3: 利用効果の可視化と整備

ステップ3では、AIの導入効果を測定し、導入効果を最大化するためのステップを行います。日々技術や環境が進化する中でAIの導入は最初の1回目で100%を目指すのではなく、継続的に有効性・導入効果を高めるための仕組みを作ることの方が本質的には重要です。
このためにはまずは導入効果・有効性を評価するための仕組みが必要になります。導入効果・有効性を評価するためには、有効性を図るための主要KPIの決定、有効性評価の仕組みの設計、評価基準の設計と評価方法の設計が必要となります。
また、継続的に有効性・導入効果を高めるための仕組みとしては、ステップ2で触れた知識を有効性・導入効果を測りながら拡張していくことが必要となります。この際に現時点では取得できていない知識・データも多々ありますので、知識・データを取得するための仕組み・プローブを業務システム・業務フローの中で設計していく必要があります。また併せて、利用ユーザからのフィードバックを適切に取得するための仕組みも必要となります。

このように、生成AIの導入と活用は、ステップを切って段階的に進めることが重要で、各ステップでの具体的なアクションを計画的に実行することで、組織全体のAI利活用能力を高め、業務効率化と、組織のイノベーション能力の向上を図ることができます。

まとめ

今回の記事では、AI CoEについて記載しました。現在、多くの企業が生成AIの活用に向けての組織体制を検討・構築していると思いますが、急いで構築するあまり、十分な検討が行われず、結果としてアンチパターンに陥るケースも少なくないかと思います。企業全体のAI活用能力を高め企業価値を高められる理想的なAI CoEとなることもありますが、そうでないことも多々あると思います。本記事がAI CoEにやるべき活動や、問題点に気づくきっかけとなれば幸いです。

また既にAI CoEのような専門チームを構築している企業においても、技術と市場環境の両面ともに急激に変化しつづけているため、自社のAI戦略を定期的に再考し、不足している要素や必要なスキルセットを見直すことが重要になります。成功に向けて内部で不足している部分を外部からのサポートで補うことも必要です。、一方で、外部にノウハウを依存している部分を徐々に自社内部でできるようにするための戦略を描くことも大事です。企業全体のAI活用能力を継続的に高めるための仕掛けを作りながら、企業の事業におけるAI戦略を持ちながら前進することが、AI CoEの成功につながるでしょう。

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