無意識な「質問の癖」が相手に圧を生み出していた話

はじめに
こんにちは、ひさと申します。突然ですが、皆さんはチームメンバーから「圧を感じました」と言われた経験はありますか?
先日、チームメンバーとの 1on1 で、次のようなやりとりがありました。
ひさ:「最近、僕のふるまいについて何か気になることはありますか?」
先輩:「うーん、うまく言語化できないのですが、ひささんが“そもそも”というところから質問を始めると、話の流れを別の方向に持っていかれる感覚を何回か感じました」
ひさ:「なるほど… その感覚を別の表現で言い換えると、どんな感じでしょうか?」
先輩:「うーん、圧みたいな感じかな?」
一般的には、上司と部下の関係で「上司の方が立場が上なので圧を感じて意見しにくい」といったケースが多いと思いますが、今回の場合はそうではありません。それ以外の何かで圧を生み出してしまっていたのだと、フィードバックで気づくことができました。圧があると、周りが発言をためらうようになったり、会話がスムーズに進まなくなったりすることがあります。
そこで、別のチームメンバーとも雑相してみたところ、私の「質問の癖」が圧の一因ではないかと考えました。私の場合は、無意識に根本原因を深掘りするための質問をしてしまっていることが多く、それがかえって意図を伝わりにくくさせたり、圧を生み出している原因であると気づきました。質問の仕方は、技法として学習されるくらい奥が深く、実はとても難しいものです。
本記事では、この 1on1 をきっかけに、自身の質問の癖が生み出していた圧に向き合い、どのような工夫をしているのかを共有します。
複雑な問題に取り組むために必要な、チームを前進させるための「質問する力」と「質問できる環境」の 2 つの観点で意識し始めたポイントについてお話しします。
「質問する力」をメンバーが身につけると同時に、「質問できる環境」をチーム全体で整えられれば、複雑な問題に立ち向かうときに大いに役立つはずです。具体的な質問スキルを身につけ、プロジェクトの生産性向上やメンバー間のコミュニケーションを改善につながると思うので、参考になれば幸いです。
質問の癖が出る場面と問題点
メンバーと話している中で、チームが「複雑な問題」に挑んでいるときほど、質問の癖が出やすくなっていると感じました。たとえば、新しい技術に触れたり、ドメイン知識が不足していたりする場合に、特に顕著だったと感じます。
「質問の癖」が明らかにしたいことを不明瞭にし、相手の意見を否定するつもりがないのに否定されていると感じたり、相手が何を感じているかわからず「圧」として感じさせてしまう、といったことが起こってしまいがちです。
つまり、問題解決のための質問をしているつもりが、かえって解決までのプロセスの足枷になってしまい、チームが前に進む力を弱めてしまいます。
一方で、質問をしないままでは内容を理解できずに時間だけが過ぎてしまうリスクもあります。
では、自分が明らかにしたいことが相手に伝わり、チームを前進させることにつながるような質問をできるようになるためには、どうすればよいのでしょうか?
質問癖の中にある「圧」の要因探し
1on1 のあと、他のメンバーと雑談する機会があり、率直に「圧を感じたことはありますか?」と尋ねてみました。すると、最初に挙がったのは「質問を受けたときに、その裏側が分からないことがある」という意見でした。
以前、先輩から「ひささん、質問が長くなりがちだよね」というフィードバックをもらったため、それ以来、なるべく短く簡潔にするよう心がけていました。しかし、その結果、質問の背景や意図が十分に伝わらなくなっていたようです。
意図が伝わりにくくなっていた原因を振り返ったとき、私のチュータリング経験が影響しているのではないかと考えました。チュータリングとは、学生にさまざまな角度から考えてもらうために積極的に質問を投げかけ、思考のメタ認知能力を高める活動です。
私は 3 年間、ITTPCという国際認定カリキュラムに基づくトレーニングを受けながら、学生が問題の背景を整理し、自分で考えられるようサポートする方法を学びつつ、実際にチュータリングを行ってきました。
その過程で、情報をすべて伝えず、相手にも考えてもらうという質問の仕方が私に染み付き、今では「癖」になっていたのだと思います。そしてこの癖が、開発現場ではチュータリング的な質問の仕方が、無意識に詰問のように感じられたり意図が伝わらなかったりしたことで身構えられてしまい、「圧」と受け取られてしまっていたのだと思います。
どうすれば「チームを前進させる質問」ができるのか
私は、質問の癖を抑えてチームを前進させる質問をするためには「質問する力」と「質問できる環境」の両方が欠かせないと考えています。それぞれの観点から、私が意識しているポイントを 4 つずつ紹介します。
質問する力
ポイント 1:自分のモヤモヤに気づく
質問のきっかけは多くの場合「何か違和感がある」「ここがわからない」というモヤモヤです。まずはこのモヤモヤを自覚し、質問の準備をすることが大切です。
「あれ、ここが腑に落ちないな」と自分で気づき、その正体を探る姿勢を持ちましょう。
ポイント 2:思考する時間を作る
人には「直感的な早い思考」と「論理的な遅い思考」があるといわれています。勢いのまま質問すると、意図が伝わらなかったり、攻撃的な表現に聞こえたりするリスクがあります。
まずは「ちょっとここがモヤモヤしていて…」みたいな形で自分の状態を正直に伝えたり、「えーっと」「うーん」などのフィラーをあえて使ったりして、「論理的な遅い思考」をするための思考する時間を作ってみましょう。
ポイント 3:ロジックだけでなくパッションも伝える
質問技法のトレーニングでは論理的な部分を重視しがちですが、複雑な問題ではエビデンスが不十分なこともしばしばあります。
そこで「実はこうした不安があります」「自分としては慣れている方法を使いたい」といった感情面も言語化して伝えると、相手との認識が共有しやすくなります。
ポイント 4:主張と受け入れをはっきりさせる
質問する際に「自分は〇〇のところはすごくいいと思っています。ただ、この辺がよくわからなくて……」のように、どこを受け入れて何を主張したいのかを明確にしましょう。
受け入れた内容をあらかじめ共有することで、相手も「ここを話せばいいのだな」と安心して意見を伝えやすくなります。
質問できる環境
ポイント 1:人格は批判しない
相手の行動や意見に対して建設的にフィードバックすることは大切です。しかし、その人そのものを批判してしまうと、そのチームが「質問がしにくい環境」に一変します。
たとえば「君はなんでそんなミスをするの?」ではなく、「そのミスが起こった要因は何?」のように置き換えるだけでも、相手に与える印象は大きく変わります。
ポイント 2:質問ができる余白をつくる
会話に全く余白がないと、質問をするタイミングがなくなってしまいます。意図的に「他に何かありますか?」と尋ねる時間を設けたり、あえて間を取ったりして、ペースに余裕をもたせる工夫が必要です。
こまめに「ここまでは大丈夫そうですか?」と聞いてあげるのも良い方法だと思います。
ポイント 3:共通のコンテクストを持ちやすい活動にする
共通のコンテクストがないと、1 から 10 まで毎回すべてを説明しなければならず、質問の範囲が広がり過ぎて迷いやすくなります。
ドキュメントやホワイトボードなどで情報を「見える化」して透明性を高めたり、ペア・モブ作業でメンバー同士の共通背景を形成すると、質問の前提が一致しやすくなり「意図がわからない」という状況を減らせます。
ポイント 4:互いに褒める
実は、多くの人にとって質問は勇気のいる行動です。質問が出たら、その行動をチームの前進に貢献したものとして素直に評価し合いましょう。
「それは考えてなかったけど、その質問のおかげで気づけたよ、ありがとう!」など、質問によるプラスの効果を共有すると、さらに質問がしやすい雰囲気が生まれます。
おわりに
「質問する力」と「質問できる環境」は、チームが複雑な問題に直面したときほど、その真価を発揮します。どちらか一方だけではなく、両軸を同時に整えることが、チームの前進を加速させるカギになるのだと感じました。
質問する力を高めることで、相手の意図や背景を捉えやすくなり、より建設的な議論を引き出すことができます。
質問できる環境が整っていれば、誰もが気軽に疑問を投げかけられるため、知識や情報がチームの中でオープンに共有され、問題解決のスピードや質が高まります。
質問がポジティブに機能すると、チームの成長やプロジェクトの成功に大きく寄与するため、そのための能力は大切なのだと改めて感じました。