「成功するスタートアップ、失敗するスタートアップ」――足立崇彰さん、FLATBOYS内田さんと、商売の原点を語った

先日、クリエーションラインのアドバイザーで、日本郵政キャピタルの前代表でもある足立崇彰さん(たかさん)、そして我々のCOSTA(Co-Creation Startup)第1号パートナーであるFLATBOYS社長の内田さん(うっちー)と、「スタートアップ立ち上げの極意」をテーマに対談する機会をいただいた。

司会・進行という立場でその場にいたつもりだったのだけれど、終わってみると、自分自身が一番多くを持ち帰った感覚がある。聞いていたつもりが、いつの間にか聞き入っていた、というやつだ。

スタートアップ投資のリアル、シリコンバレーと日本の構造の違い、プライシングの哲学、そして最後に出てきた「商売とは何か」という問い――どれも、これからスタートアップに挑む方にも、すでに走り出している経営者にも、我々のように共創で伴走する側にも、必ず刺さるはず。この対談は、本当に多くの方に観てほしい内容になっていると自信を持って言える。本稿では、その中でも僕自身が特に強く揺さぶられたポイントを、感想とともに整理しておきたい。


1. 「強み」を見る、それがすべて

たかさんは、シリコンバレーでパナソニックのCVCを率い、その後日本郵政キャピタルの代表として何百、何千という投資判断をしてきた方だ。その上で、シードアーリーのスタートアップを判断するときの軸を、対談の中で明快に言語化されていた。

ユーザーのペインは本当か。マーケットは成長しているか。これは「前提」として確認する。
その上で、ペインを解決するプロダクト/サービスの 「強み」 が何か。これですごいなと思えるか――そこで投資を決める。

経営者の素質やチームの良し悪しは、もちろん見る。けれど、それは「前提」であって、判断軸そのものではない、と。

これは意外だった。「結局、人だ」と多くの投資家が言う中で、強みのプロダクトに張る、と言い切る。技術屋出身のたかさんらしい筋の通り方だなと感じた。

我々クリエーションラインも、COSTAの文脈で「このスタートアップと一緒にやるか」を判断していかなければならない。「強み」とは何か、そしてそれは本物か――この問いを、自分たちの判断のど真ん中に置こうと改めて思った。


2. 値段は「コスト積み上げ」ではなく「価値」で決める

ここはもう、聞きながら耳が痛かった。

月額1万円のSaaSと、月額30万円のBPOがあったときに、それを「単価が違うから」と分けて考えるのは間違い。スタートアップが提供しているのは 価値 であって、人がやろうが自動でやろうが、価値が30万円なら30万円のプライスを付けていい。

日本の値付けは「コスト積み上げ式」になりがちだ。原価いくら、工数いくら、だからいくら――。一方シリコンバレーは「価値ベース」で値段が先に決まり、その内訳を逆算する。リーキャッシュフロー70% なんて数字が平気で出てくる。

我々もエンジニアリングの会社として、「人月何人で、だからいくら」と話してきた歴史が長い。コミットメントプラン2029で掲げた「成果コミット型契約への移行」は、まさにこの 値付けの思想を180度ひっくり返す挑戦 なのだと、改めて腹落ちした。

そして、内田さんが今まさにFLATBOYSで直面している「アルファ版のプライシングをどうするか」という問いに、たかさんの一言がスパッと刺さっていた。

「本当は10万円。でも今なら90%ディスカウントで1万円」と提示しなさい。最初から1万円と言ってしまうと、二度と上げられなくなる。

ディスカウントの理由(アルファ版だから、バグ対応も伴走するから等)まで添えれば、後から正価に戻していける。プロダクトの本来の価値を、絶対にディスカウントしないこと。これはCOSTAパートナー全社で共有したい、本当に大事な視点だった。


3. 日本のIPO 9割、シリコンバレーのM&A 9割

たかさんが帰国して一番驚いた事実が、これだそうだ。

シリコンバレーではスタートアップの出口の9割がM&A。日本は9割がIPO。完全に逆である。

このギャップは、単に文化の違いではなく、設計の違いだ。プロダクト単体で上場するのか、大きな基盤を持つ企業の機能の一つとして買収されて伸びていくのか――どちらを目指すかで、資本政策も、シリーズごとの調達額も、そもそも作るプロダクトの方向性すら変わってくる。

Salesforceがあれだけ伸びたのは、基盤を持っていて、その上に乗る会社を次々と買収していったから。日本はまだ「単品がいっぱいある」状態で、なかなか海外と勝負しにくい。

この一節は、僕の中で今後のCOSTAの絵を描く上で大きなヒントになった。「縦型SaaSはM&Aを目指す、基盤型はIPOを目指す」 という見立ては、業界の力学そのものを言い当てている。

我々自身も、複数のスタートアップと共創していく中で、ある時点から「単品の集合」ではなく「基盤」として一段上の世界を構想する必要が出てくるはずだ。


4. 海外展開の本丸はローカライズではない

「日本発でグローバルに行きたい」――COSTAでも何度も出てくるテーマだ。ここでも、たかさんの答えは想像と違った。

大事なのは、いいディストリビューターをいかに見つけるか。いいレップをいかに見つけるか。プロダクトのローカライズではない。

「アメリカで売ろうとすると、いくらいい製品でもディストリビューターを通さないとお客さんは買わない」と。なるほど、と。我々はつい「翻訳」「現地法人」「マーケのローカライズ」と作業から考えてしまうけれど、本当のセンターピンは 「誰が、誰に売るのか」 をクリアにすることだった。シンプルだが、本質。

ちなみに、たかさんは「日本のエンタメと抹茶は、すでに海外で異常に評価されている。日本人が思っているよりずっと」とも言っていた。これは別の機会に深掘りしたい話。


5. 一番刺さった一言――「これは、商売なんですよね」

クロージングでたかさんが言われた一言。これが、僕の中で一番響いた。

最後にワークをよくやるんです。「私たちは、誰に、何を売ります」 を1行で書きましょう、と。これがね、結構書けないんですよ。

AIを売っている?プラットフォームを売っている?――発注書の「品名」欄に、果たしてそれは書けるのか。書けないなら、それはまだ商売になっていない。

技術屋出身のたかさんが、最後の最後に出してきた言葉が「商売」だった、というのが心底面白かった。松下幸之助の名前を引いていたのも印象的だった。技術と商売は対立する概念ではない。技術を商売に翻訳できて、初めてプロダクトは社会に届く

クリエーションラインも、AI、共創、COSTA、Co-Creation Sherpa――格好いい言葉はたくさん持っている。でも、「我々は誰に何を売っているのか」を1行で言い切れているか? 問い直すと、まだまだ甘い。社内のメンバーにも、この問いを正面から投げてみたいと思っている。


次回もお楽しみに

今回は司会という立場だったので、突っ込み切れなかった話題もたくさんある。次回は、また別のスタートアップ経営者の方をゲストにお迎えして、たかさんと一緒にさらに深堀りしていく予定だ。

たかさんの語り口は穏やかだけれど、一つひとつの言葉に投資家としての血が通っていて、文字で読むのとはまた違う重みがある。うっちーのリアルな悩みと、それに対するたかさんの即興のアドバイスのやり取りも、対談だからこそ生まれた価値だと思う。この記事で抜き出した5つのポイント以外にも、聴き応えのある話がぎっしり詰まっている。

スタートアップを始めた方、これから始めようと思っている方、CVCや投資の世界に興味のある方、そして我々のように共創でスタートアップに伴走している方――どんな立場でも、必ず持ち帰るものがある対談になっていると思う。

ぜひ、動画を観てほしい。そして、もし良ければ、感想も聞かせてほしい。

🎥 動画はこちら ▶ [「あだちの極意」Vol.1(前編)] [「あだちの極意」Vol.1(後編)]


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クリエーションラインの代表。技術は好きだけど、それ以上に人が好き。顧客やメンバーとどんな未来が描けるのかを考えながら日々ワクワクしています。
休日は妻&息子と過ごす時間を大事にしています。家族との何気ない日常が僕のエネルギーの源です!

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