不確実なら、予測よりコントロール 〜エフェクチュエーション基調講演ダイジェストと、COSTAのアスキングをふりかえってみた〜

遂に9月に突入しましたね!とは言えまだまだ35℃を超える暑い日もあったりします…
そんな暑い日の対策として、私が今年実践した対策は「出社前についつい中禅寺湖でサップをする」です!非常に気持ち良かったので皆さんの参考になれば幸いです。

どうも笹です。

少し前になりますが、6月29日に渋谷SOILさんでこんなイベントを開催させてもらいました!
このイベントの基調講演とパネルディカッションの動画が先日出ましたので興味ある方は是非!

「不確実性を乗り越える!『クレイジーキルト』から学ぶスタートアップ・新規事業開発の共創戦略」

  • 主催:クリエーションライン株式会社
  • 協力:東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ
  • 登壇:吉田満梨さん(神戸大学大学院 教授・『エフェクチュエーション』著者)、清水健太郎さん(東急株式会社)、石亀直樹さん(みらいマルシェ株式会社)、根岸慶(クリエーションライン)

基調講演から事例ピッチ、パネルディスカッション、交流会まで、会場がずっと良い感じの熱量でした。ご参加いただいた皆さん、登壇者の皆さん、本当にありがとうございました!

この記事では、『エフェクチュエーション』の著者でもある吉田先生の基調講演のダイジェストをメインにお届けします。動画より文字が好きな方向けに書いていますが、記事を読んで面白そうだと思ってくれた方はぜひ動画も見てもらえると嬉しいです!

先に結論をざっくり言うと、

エフェクチュエーションは「不確実性に、予測ではなくコントロールで対処する」思考様式で、天才起業家の専売特許ではなく、誰でも学習できる。

そして講演を聞きながら、「これ、COSTAが普段やってることそのものでは……?」となった話と、「あれ、これ勘違いしてたな……」という反省を、最後にふりかえります。

1. エフェクチュエーションって何?

エフェクチュエーションは、起業家から発見された思考様式です。

提唱者は、アメリカ・バージニア大学でアントレプレナーシップを研究していたサラス・サラスバシー教授。彼女は「熟達した起業家」を厳しい基準で選び、意思決定実験に協力してもらう研究を行いました。20世紀の終わり頃のことです。

彼らは新しい市場や事業を繰り返し作る中で、高い不確実性に直面します。そこで共通して使われていたのが、予測ではなくコントロールによって対処するという思考様式でした。この発見と言語化が「エフェクチュエーション」です。

吉田先生いわく、経営学の中でも「何十年に一回出るか出ないか」レベルの重要な研究とのこと。

そしてここが最大のポイントなのですが、エフェクチュエーションは最初から「学習可能」だと提唱されています。

すごい起業家というと、イーロン・マスクのような人を思い浮かべますよね。ともすると「彼らがすごいからできたんだ」と言われがちです。でもそうではなく、彼らが成果を出している理由は、共通した思考様式を使った結果である。だから誰でも学べる。

実際、ビジネススクールで2〜4ヶ月・半分演習の形で学ぶと、だいたい皆さん使えるようになるそうです。夢がありますね!

2. まずは逆側から:コーゼーション(因果論)の話

エフェクチュエーションを理解するには、逆側の考え方から見るのが分かりやすいです。

それがコーゼーション(因果論)。「目的に対して、最適な手段を選択する」という発想です。ビジネススクールでは、エフェクチュエーション以外の授業はほぼ全部これを教えているそうです。

プロセスはこんな感じです。

  1. 目的がある(製品アイデアや顧客ニーズなど、具体的な機会が見えている)
  2. 競合分析やマーケティングリサーチなど、外部環境の分析を行う
  3. 分析をもとに、最適な計画・戦略に落とす
  4. 必要な資源を調達して、実行する

とても合理的です。吉田先生も「これが使えるときは使うべき」と言っています。

ただ、新しいことをやろうとすると、こうなりませんか?

  • そもそも何をすればいいか見えていない
  • 「成功が保証されるやり方」なんて、あったら苦労しない
  • 計画は立てられるけど不確実で、自信を持って動けない
  • 「うまくいくか分からない計画」には、協力も集まらない

コーゼーションで行き詰まるこの状況で、起業家たちが経験上使っていた代替的な考え方。それがエフェクチュエーションです。

3. 5つの原則をぐるぐる回す

エフェクチュエーションは、5つの考え方の組み合わせです。プロセスに沿って紹介します。

① 手中の鳥:目的ではなく、手持ちの手段から始める

出発点は目的ではありません。自分がすでに持っている「手持ちの手段」を評価して、そこから何ができるかを発想します

誰もが持っている手持ちの手段は、典型的には次の3つです。

  • 私は何者か(アイデンティティ、価値観)
  • 私は何を知っているか(専門知識に限らず、人生経験から得た信念でもOK)
  • 私は誰を知っているか(頼れる人、アプローチできる人とのつながり)

これに加えて「余剰資源」(会社や他人が持っているけど、持ち主が重視していない資源)も使えます。

② 許容可能な損失:最悪でも飲めるなら、やる

出てきたアイデアを実行するかどうかは、期待利益の大きさでは決めません。

予測は外れるものと想定した上で、最悪の場合に起きる損失を自分が飲めるなら、やる。この基準で行動にコミットします。

①と②を組み合わせると、新しい資源を調達するまでもなく、手持ちでできる行動を、飲めるリスクの範囲ですぐ始められます。起業家の行動が早い理由は、これなんですね。

③ クレイジーキルト:行動すると、仲間が増える

行動を起こすと、初めて他者との相互作用が生まれます。その中で仲間やパートナーとの関係を作ることを、起業家はとても重視しています。今回のイベントタイトルにもなっている原則です。

面白いのは、パートナーが持ち込むのは資源だけではないこと。パートナーには起業家とは違う目的や想いがあるので、新しい目的も一緒に入ってきます

つまり、仲間が増えるたびに「使える手段の集合」と「何ができるかの方向性」の両方が更新されて、サイクルがどんどん大きくなっていくわけです。

④ レモネードの原則:偶然をてこにする

「人生がレモンを与えたら、レモネードを作れ」という格言が由来です。

思ってもみなかった手段や目的をパートナーが持ち込んでくる。うまくいくと思った行動が最悪の形で失敗する。そんな予期せぬ事態を、避けるのではなく積極的に活用するという考え方です。

⑤ 飛行機のパイロット:コントロールで未来を作る

ここまでの4つを組み合わせると、予測を一切必要とせず、コントロール可能な活動に集中しながら、仲間や偶然を取り込んで「できること」を大きくしていくサイクルが回ります。

その結果として、起業家自身も最初は想像していなかった新しい事業・製品・市場が生み出されていく。予測ではなくコントロールに集中することで、新しい未来を作る。これがプロセス全体を指す5つ目の原則です。

4. 本イベントの主役:クレイジーキルトとアスキング

今回のイベントの主役として「クレイジーキルト」を選びました。なぜクレイジーキルトを主役に選んだかというと、5原則の中で一番難しいからです。他の4つの原則は個人でも実践できるのですが、クレイジーキルトは相手がいる原則です。それ故に、人によってやり方も内容も違ってくることもあり、実践して経験を積むことが大事になります。最も難しい原則を体験してもらうことが最も深い学びに繋がると考え、イベントの中心にクレイジーキルトを置かせてもらいました。

ジグソーパズルではなく、パッチワークキルト

コーゼーション的なパートナーシップのメタファーはジグソーパズルです。完成図が最初から決まっていて、足りないピースを外から調達してくる、という考え方です。

一方、エフェクチュエーションのメタファーはクレイジーキルト。ランダムな布をつなぎ合わせてデザインを作っていくタイプのパッチワークです。

キルト作りでは、それぞれのキルターが自分の好みで集めた布切れを持ち寄ります。誰かがつなぎ始めたパターンを見て、「だったら自分のこの柄をつないだら、もっと良い感じになるんじゃない?」とお互いに出し合い、試行錯誤していく。結果として、誰も最初には想像しなかったデザインが完成する

パートナーは「足りないピース」ではなく、「一緒にデザインを作っていく人」なんですね。

セリングではなく、アスキング

仲間へのアプローチの仕方も対照的です。

コーゼーションの場合はセリング(売り込み)。最適なアイデアと明確なビジョンがある前提なので、「いかに売り込んで買ってもらうか」になります。共感されれば成功、されなければ失敗です。

エフェクチュエーションの場合はアスキング(問いかけ)。自分のアイデアが本当に最適かは分からない、という前提に立った上で、こう投げかけます。

「自分はこれ、すごく意味があってやりたいと思ってるんですけど、どうでしょうか?一緒にやりませんか?」

ここからが面白いところで、たとえば出資をお願いして「お金は出しません」と断られたとします。セリングならここで失敗です。

でもアスキングでは、相手は「お金を出すことは、私にとって許容できない損失です」と言っているだけ。だったら次に探るのは、「じゃあ、何なら許容可能なんですか?」です。

お金は出せなくても、別の出資者を紹介してくれるなら、それは「誰を知っているか」の自発的な提供。立派なクレイジーキルトのパートナー関係の成立です。相手が違うアイデアを提案してきて、そこに自分も意味を見出せるなら、方向性は変わるけど、それもパートナー成立。

資源を調達できるかどうかの成功・失敗ではなく、お互いにとって意味のある未来をオープンに模索するやり取り。それがアスキングです。

最初は相手の手持ちの手段も、許容可能な損失も見えません。だからこそ、売り込むのではなく問いかける、そして相手の話を聞くこと自体が、パートナー関係への貢献になる。この指摘、しびれました。

5. で、COSTAはどうなの? 〜自分たちのアスキングをふりかえってみた〜

ここからは、講演を聞きながら「これ、うちのことでは?」と勝手にドキドキしていた話です。

私たちはCOSTA(Co-Creation Startup)という、エンジニアリングを株式対価で提供する事業をやっています。スタートアップに出資しつつ、エンタープライズ品質の開発チームとして一緒にプロダクトを作る、いわば「エンジニアリングファンド」です。

エフェクチュエーションの視点でふりかえってみると、思い当たる節がたくさんありました。

COSTA自体が「手中の鳥」から始まっている

COSTAは「スタートアップ支援の市場分析」から生まれた事業ではありません。

クリエーションラインが積み重ねてきたエンプラ品質の開発力、AI駆動開発のノウハウ、15年のSaaSの知見。この手持ちの手段から「何ができるか?」を発想した結果が、「この技術力を、未来を創るスタートアップのために役立てたい」というCOSTAでした。今思えば、教科書通りの手中の鳥です。

出会いは「誰を知っているか」から

COSTA初の株式対価契約となったFLATBOYSさんとの出会いも、イベントやインバウンドではなく、業界をよく知る方からの紹介が起点でした。

そこから初回の顔合わせ→経営層→PdM→エンジニアと、段階的にお互いを知る時間を重ねて、契約に至りました。ふりかえると、最初から「契約を売り込む」のではなく、お互いの手持ちを見せ合いながら「一緒に何ができそうか」を探る時間だったなぁと思います。

パートナーは資源だけでなく、目的も持ち込む

顧問の足立さん(元・日本郵政キャピタル代表、現ATTO&Co.株式会社Co-Founder)がチームに加わったときも、まさにこれを実感しました。人脈という資源だけでなく、スタートアップエコシステムへの視点や「こういう方向もあるんじゃない?」という新しい問いが、COSTAの「何ができるか」を広げてくれています。

そして実は、今回のイベント自体がクレイジーキルトでした。主催は私たちですが、東急フューチャー・デザイン・ラボさんの協力があって、渋谷SOILという場で、私たちだけでは届かなかった方々との相互作用が生まれた。布を持ち寄ったら、想像より良いデザインになったやつです。

正直、勘違いしていたことも

とはいえ、吉田先生の話を聞くまで勘違いしていた所もあります。

偶然の出会いやネットワークを活かすという考え自体は、もともと持っていました。なので講演の前半は「お、これって手中の鳥とかクレイジーキルトのことでは?わりとできてるのでは?」と、やれてる感を持ちながら聞いていました。

でも、よくよくふりかえってみると異なる所も見てきました。私がやってきたことをざっくり表現すると、「自分のやりたい目的が先にあって、それに合わせて、偶然出会った方の力をお借りする」です。出会いは偶然でも、相手を「自分の完成図に足りないピース」として見ていた気がします。なんか嫌なやつっぽいですが!

……そう、これはどちらかというとコーゼーション。メタファーで言えば、キルトではなくジグソーパズル。こんちくしょー!

相手が持ち込む布で、自分の完成図の方が変わっていくことまで歓迎して、はじめてクレイジーキルトと言えます。そのためにも、アスキングをもっと意識したほうがいいなぁと痛感しました。

もうひとつ刺さったのが、アスキングの「相手の話を聞くこと自体が貢献になる」という部分でした。

スタートアップの皆さんと話すとき、COSTAのモデルはちょっと珍しい仕組みということもあって、つい「説明」に時間を使いすぎてしまう瞬間があります。こちらからの情報提供、GIVEのつもりでやっているのですが、セリングに近いとも言えそうです。コレからは相手の手持ちの手段は何か、何が許容可能で何が許容不可能なのか。そこを探る問いかけの時間を、もっと取れるようにすると良さそうだと思いました。

「どうでしょうか?一緒にやりませんか?」から始めて、断られたらそこからが対話の本番。次の出会いから、ちゃんとやっていきます。

6. まとめ 〜一緒にクレイジーキルトを縫いませんか?〜

今回のイベントの学びを一言でまとめると、こうなります。

不確実なことに挑むときは、予測の精度を上げるより、手持ちの手段から始めて、仲間との相互作用でコントロールできる範囲を広げていく。

そしてその仲間づくりは、売り込み(セリング)ではなく問いかけ(アスキング)から。断られても失敗じゃなくて、「じゃあ何なら一緒にできますか?」を探る対話の始まりです。

COSTAも、スタートアップの皆さんと一緒にキルトを縫っていくつもりで事業をやっています。「エンジニアリングを株式対価で」って何それ?と少しでも思った方、ぜひ気軽に話しかけてください。(アスキングと言った途端に漂うセリング臭)

というわけでワイワイ話しましょー!


余談

イベント後の交流会で、参加者の方同士が早速「アスキングの練習」をしていたのがとても良い光景でした。ああいった初対面の人たちが繋がっていく場をもっと作っていきたいですね!。

今回の内容をもっと深く知りたい方には、吉田先生が関わられている書籍がおすすめです。入門書の『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』と、サラスバシー教授の原著の訳書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』があります。私ももう一周読み直そうと思います!

COSTA(Co-Creation Startup)

笹 健太(X: @sasakendayo)

Author

Co-Creation Startup チームリーダー。
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週末はずっと息子と野球をしているのでやや黒めです。

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