「受託開発 is dead」のその先を3人で本音で話してみた 〜AI時代の受託開発のミライ イベントレポート〜

もう8月も終盤なのにまだまだ暑いですね!イベントから1ヶ月経ってしまいましたが、アツさはまだ冷めていないのでセーフということにしてください。

どうも笹です。

2026年7月24日に開催したCLミートアップ「AI時代の受託開発のミライ -『受託開発 is dead』のその先へ」のイベントレポートをお届けします。

当日は事前申し込み100名超え。対談の様子はYouTubeでも公開しますが、「動画よりテキストのほうが読みやすい!」という方も多いと思うので、この記事では当日の議論をぎゅっとまとめてお届けします。つまみ食いでもぜんぜんOKです!

  • 動画はこちら → (YouTube
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ざっくり言うと

先に結論(というか、この日たどり着いた見取り図)を3つだけ。

  1. 「言われたものを作るだけ」の受託開発は死ぬ。 ここだけは登壇者3人の完全な共通見解でした
  2. 本当の分かれ目は「受託か自社開発か」でも「準委任か請負か」でもなく、「時間を売っているのか、価値を売っているのか」
  3. 作業代替の仕事は消えるけど、価値で並走するクライアントワークの需要はむしろ高まる

ただ、このイベントは冒頭に「答えを出す場ではありません」と宣言して始まっています。なので結論と同じくらい、答えの出なかった問いも大事なお土産です。それは記事の最後にまとめて置いておきますね。

誰が話したのか

受託開発に何かしらの縁がある3人で話しました。

  • 及部 敬雄さん(株式会社ホロラボ 執行役員)
    もともと事業会社側にいて「受託って嫌な話しか聞こえてこないな…」と思っていた側。やらずに批判するのは違うよねと4年前に受託の世界へ飛び込み、今は執行役員として事業・組織・顧客折衝までどっぷり
  • 森實 繁樹さん(株式会社レッドジャーニー)
    大手SIerで15年、完全受託を経験したのち、事業会社での「社内受託」的な仕事も経験。自称「あなたのビジネスパートナー」。冒頭で「答えのない会話なので、皆さんも答えを求めないでください」と宣言してくれました
  • 笹 健太(クリエーションライン COSTA)
    私です。前職から受託でアジャイル開発をやってきて、CLではアジャイルコーチとして準委任契約で顧客チームと一緒に開発。今は株式対価という新しいモデル(COSTA)に挑戦中

実はこのイベント、当日いきなり始まったわけではなくて、3人がそれぞれ事前にブログを書いて前哨戦をやっていました。及部さんのポストはなんと34万インプレッション。みんな「受託 is dead」の話、好きすぎませんか?

そしてもうひとつ大事な前提を最初に共有しました。私たちは外から石を投げる部外者ではなく、受託の当事者です。当事者だからこそ、言いにくいことも話す。否定でも肯定でもなく、モヤッとしたら一緒にモヤッとしましょう、という場でした。

テーマ1:受託開発はいつ死んだのか?

一発目からいちばん重いテーマです。3人の答えがきれいに割れました。

私(笹)は「この1年半で本格的にやばくなった」派。 人月単価のビジネスがいつまで成り立つんだろう?という危機感が、そもそもCOSTAを始めた背景でもあります。実はイベント当日も社内で、非エンジニアのメンバーがfreeeやHubSpotのAPIを叩いて業務システムを作った発表があったんですよね。今までエンジニアに頼むか外注するかだったものが、社内でサクッと作られていく。デッド度、日々上がってます。

森實さんは「危機感は2010年頃から。でも死なない」派。 リーマンショック後にシステム投資が減り、大きなお金が動かないとSIerのピラミッド構造は維持できない——そこから危機感を持ち続けて15年、それでも死なない受託開発を見てきた森實さんの結論はこうでした。

死にきれないんですよ。is deadなのかis zombieなのか分からないけど、死んでるように生きてる感じがしてます

is zombie、名言です。

及部さんは「そもそもどっちとでも言える」派。 1%でも残っていれば「生きてる」と言えるし、これだけ変わったなら「死んでる」とも言える。つまり大事なのは死んだかどうかの判定ではなく、その人がなぜそう思っているか。そのうえでプロレスラーの及部さんらしい表現が飛び出しました。

流行ったものがちゃんと倒されて、次の何かが生まれていくサイクルが一番大事。クラウドにもノーコードにも倒されなかったすごいプロレスラーが受託開発。今こそちゃんととどめを刺して、次のものを生み出したい

そして及部さんからもうひとつ大事な指摘。「受託開発」という括り自体が雑で、大規模SIerの基幹系と小さなPoC受託では状況がまったく違う。死んでるか死んでないかより、「死んでないからこのままでいい」と考えるか「死ぬかもしれないからこうしよう」と考えるか——その分岐こそが本題だよね、と。この日の議論の土台になった整理でした。

テーマ2:契約形態はどうなる? 〜準委任 vs 請負よりも大事な軸〜

受託の話をすると絶対に出てくる契約の話。先に回収しにいきました。

現場感としては、私も森實さんも「今のところ劇的な変化はない」でした。AIで効率もアウトプット量も明確に上がっているけど、準委任で時間いくらの構造なら、成果が上がった分は単価交渉で反映するくらい。森實さんに至っては「契約形態の議論は責任の所在の押し付け合い。後ろにいるのが人かAIかより、嬉しいものができてるかどうかの議論のほうが強い」とバッサリです。

ここで及部さんが軸をひっくり返します。

準委任か請負かって分け方も結構雑。大事なのは、時間を切り売りして売上を上げているのか、価値に対して対価をもらっているのか

準委任でも納品義務に近い建付けはあるし、契約の名前だけでは中身は分からない。でも「1ヶ月かかっていたものがAIで1日で終わる」ことが普通に起きる時代に、時間の切り売りで戦うのは明らかに無理がある

というわけでこの日の背骨になった問いはこれです。皆さんのチームは、時間を売っていますか? 価値を売っていますか?

テーマ3:それでもクライアントワークは楽しいという話

ここから一気にポジティブゾーンに入ります。この日いちばん熱かったパートかもしれません。

及部さん曰く、受託だろうが自社開発だろうがコンサルだろうが、やっていることはプロダクト作り。結局は、集まった人たちがいいチームを作って、いいプロダクト作りに一丸となれるかどうかがすべてで、ラベルはあんまり関係ない。むしろ受託だからこそ、製造業や建築業みたいな、自社サービス企業では絶対に関われない巨大なドメインに入れる。

建築のプロジェクトをやってるとメンバーがみんな、街を歩きながら「あの現場どこの施工会社だろう」って気になっちゃう。この辺に水道管が埋まってるよねって分かっちゃう。「受託はお客さんとの距離が遠い」なんて嘘っぱちですよ

森實さんは「いろんなマーケット、いろんなユーザーを味見できるのがやめられない」。私も、ひとつのドメインにどっぷりハマりつつ、次の案件でまたゼロから学び直せるのがクライアントワークの醍醐味だなぁと思っています。

途中「そんなにドメインが好きなら、その業界に転職したくならないの?」という相互質問も出ました(ちなみに私の答えは「ならないです。あ、でも任天堂でゲームは作りたい」でした。個社名を出すなと言われていたのに!)。ここでの及部さんの視点が面白くて。

一社に入ればその会社のことはできる。でも「建築業界全体を変える」ことは、その会社にいる限りできない。業界を横断する問題解決は、外部のクライアントワークじゃないと入り込めない領域なんですよ

なるほど〜、となりました。上流に踏み込む受託、顧客に入り込むプロダクト企業、開発部隊を持つコンサル。立ち位置は違っても、みんな「一部分ではなく価値全体に関わる」方向に向かっていて、もうラベルの違いは意味を失いつつあるんですよね。

テーマ4:単価と利益率のリアル 〜実はボーナスタイム?〜

お金の話も隠さずいきました。

単価は今のところ大きくは変わっていません。ただし森實さんから怖い指摘がひとつ。発注側に「比較対象」ができてしまった。「うちのメンバーがAIでこれくらい作れるんだけど」と値踏みされる時代になり、テスト要員のような役割には「払いたくない」と言われるようになる。同じ「エンジニア3人」でも、単価が大きく分かれていく可能性がある、と。

一方で及部さんの見立てはこうです。市場価格の感覚が実態に追いつくには3年、下手したら10年かかる。ということは——

今は総額が変わらないのに原価が下がって、利益率がめちゃめちゃ良くできるボーナスタイムに突入してるんですよ。実際、同じような体制で利益率が3割から5割に変わってるプロジェクトが、この1〜2年ですでに起きてます

時間売りのままこれをやるとズルい話になるけど、価値売りなら「いい商品を効率よくコストを抑えて作る」のは製造業と同じ、ビジネスの基本。同じAIの波が、契約思想によって真逆に作用するわけです。

ここから派生した論点が2つ、どちらも良い話でした。

その1:契約・見積もりと開発の分断はリスク。 及部さんは「人が取ってきた契約で仕事をするのが大嫌い」で、契約も見積もりも開発チーム自身でやっているそうです。契約を知らずに開発するのは、価値提供の手段もゴールも知らずに働くこと。森實さんも「誰かが勝手に取ってきた契約が、一緒にビジネスを盛り立てようとしている現場の枷になる」と深く同意していました。自分たちで見積もっているチームは「今ここに力を入れるべきか」を自律的に判断できる。これ、地味だけどすごく大事な話だと思います。

その2:レベニューシェアという出口。 手前味噌ですが、私からは株式対価・レベニューシェアのような「成功しないとどちらも儲からないモデル」の話をさせてもらいました。及部さんの受け止めがこちら。

受託って本来、価値が出て初めて意味があるもの。なのに稼働にお金が払われるから、価値を気にしなくなるバイアスがある。レベニューシェアはある意味正しい。難しいだろうけど、めちゃめちゃ応援するし、そういうモデルをどんどん作っていかなきゃいけない

がんばります!!

そしてこのテーマの結論はシンプルでした。「他の会社でもAIでもなく、このチームと次も仕事がしたい」と思われる理由を作れるか。 それができるチームに仕事が集中し、できないところは価格競争に落ちる。二極化は、たぶん数年内に来ます。

テーマ5:採用と育成 〜人に投資するか、トークンに投資するか〜

いま多くの会社で起きている「雇い控え」。及部さんの見立ては「業界が縮小しているからではなく、人に投資すべきかトークン(AI)に投資すべきか分からないから一旦停止しているだけ」。でも、新しい人が入って、成長して、時には辞めていく——その循環のない組織は明らかに死ぬので、「雇わない・育てない」という選択肢はそもそもない、と。

森實さんも「人が足りていた時代なんて一度もない業界。採用を極端に絞る理由はない」。ただし人材像は変わります。

「◯◯エンジニア」の枠に閉じこもって「あれはプロの仕事でしょ」と手を出さない人は、その世界には行けない。やれることが増えている状況に、どれだけ自分をアジャストできるか

私からは新卒採用の話をしました。CLは新卒エンジニアを結構採っていて、AIネイティブ世代は「今はこれが普通だよね」という感覚で入ってきてくれます。ベテランと若手は持っているものがまったく違うからこそ、ペアやモブで組むのが良い感じなんですよね。あと、AIは何回聞いても怒らない先輩なので、教育コストを下げてくれている面も実はあります。

森實さんの締めの一言が良かったので置いておきます。

表層的に作れる・作れないなんて、そもそも昔から競争力だったのか。どんなものの見方をする人か、どんなことを臆せず言ってくれる人か。そういう人たちが増える未来は楽しいんじゃないかな

実際、新卒メンバーの「これって誰の何のために必要なんでしたっけ?」というド直球が、設計議論の本質を突くこと、ありますよね。

テーマ6:それで、受託開発のミライは?

最後は未来の話。3人それぞれの言葉で語りましたが、見事に同じ方向を向いていました。

  • 森實さん:「何をする人」という切り口の受託は続かない。「あなたのビジネスパートナー」として事業会社と一緒にやっていく。事業会社の中の人は外のことを知らない。いろんなドメインに首を突っ込んできた受託側の横断ナレッジこそ、マッシュアップして活かしていきたい
  • :何を作るかより、作りたいビジョンを顧客と一緒に持って、ビジネスとして回していきたい。AI議事録みたいな「誰でも作れるもの」ではなく、現実世界の泥臭い積み上げこそが真似できない強み。開発ができるだけじゃない、色々なことができるエンジニアが増える受託は楽しいはず
  • 及部さん:クライアントワークの需要はむしろ高まる。作業代替の仕事は消えるけど、これだけ不確実な時代に「外の力を借りたい」機会は増える。日本のSaaS企業は最大手でも数百億規模、でも日本の製造業は何兆円規模。その規模の問題解決はクライアントワークでしか届かない。「未来しかないですよ、正直」

「作る人」から「ビジョンを共有して問題解決に並走するパートナー」へ。受託開発という名前は残らないかもしれないけど、その中身はむしろ広がっていく——これがこの日の3人なりの未来予想図でした。

質疑応答より 〜組織の底上げ、どうする?〜

事前フォームからガチな質問をいただいていたので、2つ取り上げました。

Q1. AIを使いこなす一部のエンジニアが数倍の成果を出す一方で、組織全体をその水準にどう底上げする? 見積もり・評価・育成はどう再設計する?

及部さんの回答が痛快でした。まず「顧客の要求水準が上がってから追いつく」という順番なら、それは完全に手遅れ。市場の変化のほうが遅いんだから、先に自分たちの生産性を上げておくべき。そして「全社一律の底上げ」は、アジャイルの全社導入が失敗し続けてきたのと同じパターン。全体を見た瞬間に「できない人を落ちこぼれさせない」方向に引っ張られて、結局変われない。だからまず1チームが圧倒的にうまくいく状態を作り、周りが引き上げられていく一点突破(及部さん命名「砂山の理論」)で、結果として底上げする。

森實さんはもっと現場の解像度で。「人間1人+AIエージェント5人のチームって、1人なの?6人なの? 経験主義の裏打ちがまだ何もない。一本化はまだ無理で、案件単位で正しいと思う活動をしながらお客さんと対話していくフェーズがしばらく続く」。

私からは、AIを使いこなす力は常にクライアントより明確に高くあるべきという話をしました。経営から日常業務までAI活用が「当たり前」になっている状況を組織として作る。CLもここは絶賛チャレンジ中です。

Q2. 契約・見積もりをお客さんにどう理解してもらう? AI効率化の説明はどうしてる?

森實さんの答えは「いきなり契約と見積もりの話はしない」。その前段に必ず「実現したい世界観・予算感・制約」の会話があって、契約と見積もりはその結果にすぎない。私からは、実はAIは特別ではなくて、ドメイン理解や技術力で生産性が上がったときに成果ベースで単価交渉するのは以前からやってきたことと同じ、という話をしました。

チャットからは「AIのトークン費用って見積もりに出せるの?」という鋭い論点も。森實さん曰く「実績なしに『AIで効率化するからこれだけいけます』と言ったら負け。まずやってみせて、次の提案で乗ってもらう。やりだすとAI費用は嵩んでいくから、この議論は必ず来る」。ここは業界みんなでこれから直面するところですね。

この日生まれた問い 〜持ち帰り用〜

冒頭に書いたとおり、答えを出す場ではなかったので、答えの出なかった問いこそがお土産です。ぜひ皆さんのチームでもつまみ食いしてください。

  1. 自分たちの仕事は、時間を売っているのか? 価値を売っているのか?
  2. 価値ベースの見積もり・契約への移行を、実務としてどこから始めるか?
  3. 人への投資とトークン(AI)への投資、どう配分するか?
  4. 人間1人+AIエージェントN人のチームを、何人のチームとして見積もり・評価するのか?
  5. 誰も正解を持っていない時代の「育成」とは、何をすることか?
  6. AIの利用コストは、見積もりのどこに載せるべきか?
  7. 「このチームと次も仕事がしたい」と思われる理由を、自分たちはいくつ持っているか?

おわりに

クロージングで及部さんが言ってくれたことが、この場の意味そのものだったなぁと思います。

賛成しなくていいんですよ。「僕はこう思うんだよね」が聞きたい。ブログでもSNSでもいいので、ぜひ発信してほしい。こういう話をいろんなところでして、みんなで考えていくのが大事だから

というわけで、この記事を読んで思うところがあった方、ぜひ #clmeetup で感想を聞かせてください。「つまんなかった」でも全然OKとのことです(及部さん談)!

対談のフルバージョンはYouTubeで公開していますので、テキストで物足りなくなった方はぜひ動画のほうもどうぞ。3人の熱量でZoomがオーバーヒートして一瞬止まる場面も含めて楽しめます。

新しい競争のリーダーズ、第三弾もそう遠くないうちにやりたいなと思っています。森實さんからは「6人タッグ選手権やりますか」という不穏な提案も出ているので、乞うご期待です。

それでは、また次のイベントでお会いしましょう!わいわいしましょー!


※余談:本編中に「個社名は出さないでくださいね」と事務局に言われていたのに、私は任天堂と言い、森實さんは楽天と言いました。反省しています(していない顔)。

スピーカーブログ

及部さん:「受託開発 is dead」は真実か

森實さん:「受託開発 is dead」の世界で何を残し何を渡すのか(やや俯瞰的目線)

笹:「受託開発 is dead」当事者の感触

Author

Co-Creation Startup チームリーダー。
顧客と共に本当に価値があるものを作ることにコミットするために、成果報酬型のプロジェクトにチャレンジ中!本気で良いものを作ろうと思っている方はぜひ一緒に仕事をしましょう!
週末はずっと息子と野球をしているのでやや黒めです。

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