クネビンフレームワークで読み解く、内製化立ち上げフェーズの“ありがちな失敗”

はじめに:なぜかうまくいかない「内製化」の取り組み

こんにちは、スクラムマスターのしょーだです!
最近、「内製化を支援してほしい」という相談を受けることが増えてきました。
これまでもいくつかのチームで内製化の立ち上げやアジャイルの導入に関わってきたのですが、特にこれから立ち上げていこうというフェーズに関わることが多くなってきています。

そうした経験を重ねる中で、ちょくちょく感じることがありました。

「うまくいかないパターン、毎回ちょっと似てるな……?」

現場の人たちはすごく前向きですし、やる気もある。でも、なぜか同じようなつまずき方をしてしまう。
なぜだろう?と思って整理してみたときに、ふとクネビンフレームワークを当てはめて考えてみました。

すると、「これって本来は複雑な領域なのに、困難な領域のように扱ってしまっているかも…」という感覚が湧いてきたんです。

このフレームワークは、状況をどう捉えるべきかを考えるうえで、とても役立つ視点を与えてくれます。
特にアジャイルや内製化のように、最初から正解がない取り組みにおいては、問題の性質と向き合い方を整理するヒントになると感じています。

今回は、これから内製化を始めようとしている方に向けて、このクネビンフレームワークを使いながら、よくある“つまずきパターン”とその背景をまとめてみました!

クネビンフレームワークとは?

クネビンフレームワークは、「状況の種類」によって適切な意思決定のアプローチが異なることを整理するためのフレームワークです。
以下のように、大きく分けて4つの領域に分類されます。

領域特徴適したアプローチ
明確(明白)原因と結果が明らかで、正解が一つベストプラクティスを適用
困難原因と結果は分析すれば分かる専門家による分析・判断
複雑原因と結果は事後的にしか見えない試行・観察・学習による前進
カオス原因と結果の関係性がなく、制御不能とにかく即時対応、安定化優先

この中でも、内製化の立ち上げフェーズは「複雑な領域」になりやすいと言われています。
にもかかわらず、その複雑さをうまく扱えずに「困難系(正解を探す)」や「カオス系(とにかく動く)」のようなアプローチを取ってしまい、うまくいかない……というパターンがよくあります。

私の経験でも、「計画通りに進める」ことを重視するマインドが根強く、仮説検証型の進め方に納得していても、なかなか行動に移せない場面が目立ちます。
そんなときは、マインドセットの教育よりも、複雑系のアプローチを意識してもらいながら技術検証などを小さく試す中で納得を得てもらう方がうまくいくと感じています。

では、こうした背景のもと、内製化立ち上げで実際にどんな“つまずきパターン”が起きがちなのか?
私の経験を踏まえて、代表的な3つをご紹介します。

ありがちな落とし穴:複雑さを見誤った3つの失敗パターン

失敗パターン1:複雑なのに「正解を出そう」としてしまう(=困難系アプローチ)

「まずは要件をしっかり固めないと何も始められないよ」
「手戻りしないように、使う技術やツールをきっちり決めてから動き出そう」

ありがちな落とし穴:

内製化の初期フェーズは、不確実であいまいなことばかりです。不安や混乱を避けたい気持ちから、あらかじめ“正解”を出そうとしたくなるのは自然な反応です。しかし、そこにあるのは「どうすればうまくいくか、まだわからない」状態=複雑領域の課題です。

典型例:現場にノウハウがないのに「正解を出そうとして」問題を解決しようとする

たとえば、あなたのチームに「開発の経験がほとんどない人」が集まっているとします。

  • どの技術を使うか
  • 誰が意思決定するか
  • どうやって顧客と対話するか

こうした問いに対して、最初から明確な正解は存在しません。これらは、「意味を見出しながら進める」必要がある複雑領域の課題です。「誰かが最適解を知っているはず」「まず正解のやり方を見つけよう」として、正しさを探し回る――。そんな状態に陥ると、現場では「どれが正しいのか?」という議論ばかりが繰り返され、動きが止まります。

さらに厄介なのは、一度「これが正解だ」として決めた方針に固執してしまうことです。

  • 想定と現実がズレているのに、軌道修正されない
  • 手順通りにやってもうまくいかないのに「やり方が悪い」と個人の責任にされる
  • 最初に決めたルールに縛られて、現場が柔軟に動けなくなる

このように、「正解を出すこと」自体が目的になってしまうと、現実の変化に適応できず、チーム全体が機能不全に陥ってしまうことがあります。

進め方のポイント:

複雑な問題には、正解を出すのではなく、問いを立てて探っていくことが求められます。「何が正しいか」ではなく、「今、何を確かめたいのか?」という仮説を持って動くことが重要です。

👉 内製化の初期こそ「わからないことを早く見つける」ことが重要です。
仮説ベースで動きながら、実際の反応を見て意味づけしていくような進め方=アジャイル的なアプローチが効果的です。

失敗パターン2:複雑なのに「仮説もなくとりあえず動く」(=カオス系のような動き方)

「とにかく何か作り始めれば見えてくるでしょ」
「考えるより、まずは動こう!」

ありがちな落とし穴:

複雑な領域では試行錯誤が有効ですが、それは仮説や問いがある前提です。
「何のためにやるのか?」を考えずにただ動くだけでは、目的を見失った“作業”になってしまい、せっかくの行動が学習や成果につながりません。

(※なお、「まず動く」ことが求められるのは〈カオス領域〉です。ここでは即時対応が必要なため、原因よりも対処が優先されます。ただし、カオスにとどまり続けるのは望ましくなく、できるだけ早く秩序を取り戻し学習が可能な状態である複雑な領域に移行する必要があります)

典型例:問いや仮説を持たずにただ動き出すことで、何を学ぼうとしているのかが曖昧なまま進んでしまう

内製化の初期フェーズでは、まだ内製化文化やスキルが十分に整っていないことが多く、仮説検証よりも「まずは動くこと」を優先しがちです。
例えば、「ユーザーの使い勝手を改善するために作るのか」「非機能要件を満たすことを確認するために作るのか」など、何を学びたいのかという仮説がチームで共有されていません。

そのため、とにかく「簡単なアプリを作ってみよう」と動き出すものの、途中で目指す方向がぶれてしまい、「何のためにこれを作っているのか」が曖昧になりやすく、結果としてチームが迷走状態に陥るリスクがあります。

進め方のポイント

複雑系では「正解」は分からないにしても、「何を知りたいのか」「何を検証するのか」という仮説や問いを持つことが、学習サイクルを回すカギになります。
仮説→試行→観察→学習というリズムがないまま進んでしまうと、複雑な状況の中で学びが積み重ならず、結果として行き先を見失ってしまうことがあります。

だからこそ、まず問いや仮説を意識的に持つこと。それが複雑な状況でも前に進むための第一歩になります。

👉 アジャイルは「とりあえず動くこと」ではなく、仮説を持ち、小さく試し、学びを得ることです。やみくもに動くのではなく、まずは「今何を知ろうとしているのか?」を明確にしたうえで、小さく動いて検証していくことが大切です。

失敗パターン3:複雑なのに「まず社内標準化から」としてしまう(=困難系への逃避)

「とにかく標準を作って足並み揃えよう」
「うちの品質基準に満たないからリリースはまだ」

ありがちな落とし穴:

内製化を立ち上げる際に、組織として「標準的なやり方」を整えたいという気持ちはよくわかります。しかし、まだ何がうまくいくか分かっていない状態で標準化を進めてしまうと、現場の探索や学習のチャンスを奪い、本来の成長機会を損なうことになります。

典型例:実態を知らずに「標準手順」や「標準ツール」を作ってしまう

まだ何も始まっていない段階で、全社で開発フローや成果物のフォーマット、レビュー方法などを細かく決めてしまったり、「社内標準ツールだから」という理由だけで、現場に合わないツールを無理に使わせてしまうことがあります。
その結果、現場では「なぜこれを使うのか分からないけど、決まっているから従うだけ」という受動的な状況が生まれます。
こうした状態では、目的や価値を自ら探求する意識が後回しになり、本来目指すべき「自律的に考え、改善し続けるチーム」を育てることが難しくなってしまいます。

進め方のポイント:

標準化やツール統一は、ある程度の知見や共通理解が生まれてからで十分です。最初はむしろバラバラな試行を通じて、何がフィットするかを自ら見つけていくことが重要です。繰り返し現れるパターンを観察してから標準化を考える。まずは「試行」と「検査・適応」を優先し、その中で生まれる暗黙知を言語化していく方が、はるかに健全です。

👉 アジャイルでは「プロセスを厳守する」よりも、「価値に柔軟に対応する」ことが大切にされています。標準は、実践を通じて少しずつ見直しながら整えていきましょう

内製化初期は「複雑系」にいると自覚するところから

内製化の立ち上げフェーズって、正直、何が正解かよくわからない状態だと思います。
「どんな体制にするのか」、「どの技術を使うのか」、「どこまで自分たちでやるのか」
こうした問いには、明確な正解が最初からあるわけではありません。

つまり、私たちは「複雑系」にいるということです。
これは「よくわからないけど、試しながら意味を見つけていく」フェーズだということになります。

だからこそ大事なのは、

  • 完璧な計画じゃなくて、小さな試行
  • 正しい手順よりも、対話と問いかけ
  • 最初の正解じゃなくて、変化に適応できる仕組み

こういった柔軟さを持ったアプローチです。

そしてまさに、アジャイルという考え方は「複雑な状況」を前提にした動き方なんです。
正解が見えない挑戦――まさに内製化のようなケースには、アジャイルのマインドセットがとても効果的です。

最後に:複雑さを正しく認識することから始めよう

内製化の立ち上げ期は、不確実で、手探りで、正解が見えにくいフェーズです。
この状況を「複雑系」として正しく認識することが、取り組みの精度を大きく左右します。

しかし現場では、これまでの慣習や「一つの正解が必ずある」という思い込みから、「まずは計画を立てよう」「正解を決めて進もう」と考えがちです。
それ自体は善意の行動でも、状況の捉え方を誤っていると、かえって遠回りになることがあります。

また、一方で「まず動いてみよう」と考えて、とにかく手を動かし始めるケースもあります。
これはカオス領域で必要な即時対応を想起させますが、仮説や問いがないまま動き続けると、方向性を見失い複雑な状況の中で迷走してしまうことがあります。

大切なのは、今いる状況が「複雑」であることをチーム全体で自覚し、その前提に合った動き方を選ぶことです。
仮説を立て、小さく試し、ふりかえりを通じて次につなげていく。
そのような柔軟で対話的なアプローチによって、チームの中に「学ぶ力」が育っていきます。

内製化の成功に欠かせないのは、特定の手順やツールではなく、高速に学習し、適応できるチームのあり方です。
クネビンフレームワークは、その出発点として「今の状況をどのように捉えるべきか?」を考えるヒントを与えてくれます。

まずは、自分たちが複雑な領域にいるということを正しく認識することから始めてみましょう。

以上が、内製化立ち上げフェーズでありがちな失敗パターンと、それを読み解くためのヒントになります。
この記事が、あなたのチームのこれからに少しでも役立てば嬉しいです!

Author

札幌在住のスクラムマスター
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