開発着手前におさえておきたい、3つの問いによる共通理解 ~ ユーザーや課題が後付けになる開発を防ぐために ~

アジャイル開発を実践しているとき、ユーザーストーリー形式で書き出してみたはいいものの、「開発する機能からひねり出して、フォーマットを合わせているだけに感じる」「ほんとに、そういうユーザーや課題はあるのかな?」そんな感覚、覚えはありませんか?
これは、機能やソリューションから先に入ったために、ユーザーや課題が後付けになってしまっているのかもしれません。
今回は、Co-Creation Sherpaとしてこの問題に向き合うために取り組んでいる「開発前の共通理解づくり」のアプローチを、実例を交えて紹介します。
Co-Creation Sherpa:共創の伴走者として、「共通理解」を揃える理由
クリエーションラインが掲げるCo-Creation Sherpaにおいて、その伴走支援は以下の図のような流れを取っています。

この図において、王道は「1. 現状分析・課題発見」〜「2. ビジネスデザイン」から順に進むことですが、実際には「3. 開発実装」のフェーズから支援に入ることもあります。
開発から入るときには、顧客の「本当に実現したいこと」に対して、より一層意識して理解する必要があると感じています。1,2から参画している場合には、その過程で自然に「本当に実現したいこと」に向き合うことができるのですが、3の開発のタイミングではそれが流されて開発することにのみ意識が向く恐れがあるからです。結果として、冒頭で話したような「開発機能からの後付け」が発生しやすい状況と言えます。
Co-Creation Sherpaが確認する、3つの問い
では、「共通理解」として何を揃えればいいのか。自分が意識しているのは、次の3つです。
- ビジネスに対する理解:顧客のビジネスとして、どんな成果を達成したいのか
- ユーザーに対する理解:どんなユーザーがいて、そのユーザーはどんな課題やニーズを抱えているのか
- 今回のゴール:ビジネスの目標達成のために、どのユーザーの / どの課題・ニーズを解決するのか
3について、少し補足します。
ビジネスの成果も、ユーザーの課題・ニーズも、実際には多種多様です。さまざまなユーザーがいて、それぞれ異なる課題を抱えている。そういった状況で「全部を同時に解決しよう」とすると、どこにも深く向き合えず、結果として中途半端なプロダクトになりがちです。
だからこそ「今はどのユーザーの、どの課題・ニーズをターゲットにするか」を明示的に選択します。この選択によって、チームメンバーの意識を一点に集中させることができます。スクラムの価値基準に「集中(Focus)」がありますが、それに通ずる考え方だと思っています。
共通理解を揃えるために、キックオフでやったこと
ここからは、先日実際に取り組んだキックオフを事例として紹介していきます。
顧客側のPOとクリエーションラインの開発者で構成されたこのスクラムチームでは、半年ほどかけてプロダクトの1stリリースを終えたばかりのタイミングでした。1stリリースのふりかえりを行った後、2ndリリースに向けたキックオフを4時間程度実施。キックオフの前半でプロダクトのコンテキストを揃え、後半で本編のワークに入る流れで進めました。
前半は、POからプロダクトビジョンとプロダクト戦略を共有してもらいました。プロダクトの大枠から、前回のゴールを振り返りつつ、今回のゴールについてディスカッションする内容です。
後半の本編では、先ほど挙げた3つの問いについてチームで考えるワークを行いました。いくつかの手法がある中から、この記事で紹介したインパクトマッピングを用いました。ワークの流れは、下記の通りです。


ペルソナやジョブ、ペイン・ゲインなど一部異なる用語を用いていますが、ビジネスとユーザー双方を理解し、今回のゴールを定めるワークとなっていることが分かると思います。
ワーク中に意識したこと
このワークでは、ファシリテーターとして以下の2つを意識しました。
- ソリューション・機能の話は、意図して後回しにする
- 個々人で考える時間を確保し、理解を定着しやすくする
1に関して、冒頭で触れたように、開発フェーズから入るとどうしても目に見えやすい機能面から入る傾向にあります。インパクトマッピングのワークの流れをうまく用いながら、「どのユーザーの、どんな課題やニーズか」を固めてから、「どうソリューションとして解決するか」は後で考える順番を崩さないようにしました。
2つ目に関しては、POから答えを聞くのが手っ取り早いのですが、それだと「言われたことを受け取る」だけになってしまいます。1-2-4-Allのファシリテーション手法を参考に、「どのユーザーの、どんな課題を解決するのか」をまず個人個人が考えてみる。考えれば考えるほど、疑問や解像度の低い部分が見えてきます。その上でPOと確認しながら対話していくことによって、腹落ちした理解として定着しやすくなります。
キックオフの成果と感想
ここでは、実際のワークをもとに作成したサンプルでイメージをお伝えします。
今回想定しているプロダクトは、飲食フランチャイズ向けのキャンペーン素材管理システムです。フランチャイズ本部が用意したメニュー写真やキャンペーン素材(POP・チラシ・SNS用画像など)を、全国の加盟店や各店舗の店長が活用して、地域のお客様への来店・注文を促す業務を想定しています。
ディスカッションを重ねた結果、下の図のようなアウトプットが作成されました。赤色のエリアを今回のゴールと定めるところまで実施しています。以降の成功基準や、紐づく課題の詳細化・ソリューションの洗い出しは、キックオフ後に進めていく予定です。
実際のキックオフでも、こういった形でワークを進めました。その結果、次のことが達成できました。
- ビジネスとユーザーの両面から、プロダクトの文脈を理解できた
- 今回の開発で対象とするゴール(どのユーザーの、どの課題・ニーズを解決するか)の認識を揃えられた
例えば、ワーク前は「1パターンしかユーザーが想像できない」という開発者だったのですが、ディスカッションを通じて「業務視点で眺めると、ユーザーは3パターンいそう。その中で、今回は真ん中のエリアマネージャーを対象とするんだ」という解像度まで理解が深まりました。
ここから実開発を進めていく予定ですが、「本当に実現したいこと」を開発・提供できる確度が上がり、ワークを通じてチームとしての一体感も高まりました。
最後に、ワークの参加者の声もいくつか紹介します。

今回の記事では、Co-Creation Sherpaとして開発前に取り組んだ「共通理解づくり」のアプローチを紹介しました。
開発フェーズから支援に入る機会があれば、まず「3つの問い」を揃えることから始めてみるのはどうでしょうか。ビジネスの目標、ユーザーの課題・ニーズ、そして今回のゴール。この3つの問いに向き合うことが、Co-Creation Sherpaとして大事にしている「本当に実現したいこと」を提供していくための第一歩になると思っています。
